なぜやまぬ「介護ハラスメント」 セクハラや暴言 7割超の職員が経験

  1. オリジナル記事

なぜやまぬ「介護ハラスメント」 セクハラや暴言 7割超の職員が経験 (2020・2・28 Yahoo!ニュース特集)

 「よく胸を触られるんです。(職場の上司には)適当に流しておいて、と言われて……」。
25歳の女性ケアワーカーはそう打ち明けた。高齢者から性的な嫌がらせを受けたり、暴力的な行為をされたり。そんな「介護ハラスメント」の被害は、特殊なものではなさそうだ。UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの調査によると、介護従事者の実に74.2%が何らかのハラスメントを受けていたことが明らかになっている。介護従事者の労働環境は厳しい。人手も足りない。そこに加わるハラスメント。その「実態となぜ」を追った。

撮影:穐吉洋子

◆胸を触ってくるおじいちゃん

 栃木県のターミナル駅。その近くのイタリアン・カフェで、古田菜摘さん(25)=仮名=に会った。自宅から車で15分の事業所で働いている。手取りは月額16万円ほどだという。
栃木県内の大学を卒業し、進路に「介護」を選んだ。取材の日は国家試験「介護福祉士」の筆記試験の当日。実務経験が条件を満たし、ようやく受験資格を手に入れた。
「最初は警察官になりたかったけど、試験がダメでした。でも、自分の根本には『人の役に立ちたい』という思いがある。それに、おじいちゃん、おばあちゃんと話すのがもともと好きだったし」

 古田さんが勤める事業所は高齢者にデイサービスを提供しており、1日に約30人の利用者がやってくる。
「この業界へ進んだことに後悔はありません。けど、最初のほうは『まじかよ』と思ったよね。今もたまにされるけど、慣れました。いやだけど」
古田さんは2017年春に入社。1カ月の事前研修を終え、現場へ出た。1カ月もしないうちに、70代の男性利用者に胸を触られたという。
「えっ、なんでとしか、感じなかった。ショックというより、びっくりして。こういうことが介護現場でもあることは、聞いたことがあったけど、自分が受けるなんて考えてなかったから……。まじかよ、やっぱりセクハラあるんだ、って」

取材に答える古田菜摘さん=仮名(撮影:板垣聡旨)

 この男性利用者は、週2回の頻度で事業所を利用しており、トイレに行くたびに体を触られたという。
40代の女性上司に相談すると、「あの人はこんな感じだから、気を付けておいて。適当に流して」と言われた。30代前半の男性センター長にも相談したが、同じような返答があっただけで、何の対応もしてくれない。そればかりか、そのセンター長は古田さんを「フルチン! フルチン!」と下ネタを連想させるあだ名で呼ぶこともあった。
古田さんは言う。
「センター長は悪気がなかったとは思う。職場の人間関係などの相談には親身に乗ってくれるんだけど、セクハラのことには、親身ではない感じでした。私のあだ名自体がセクハラみたいなもん。いやだったなあ」
その後、センター長は交代し、あだ名は使われなくなった。古田さんの経験も積み重なり、利用者のセクハラ行為もあしらうことができるようになった。それでも、あの利用者からのセクハラは、今も続いているという。
「今はね、とにかく胸を触ってくる手を避けるよ。そうするしかない。スッとかわすんだ」

◆抱きついてくるおばあちゃん 被害は男性職員にも

 古田さんのような声は、実は、いくらでも聞くことができる。被害を受けているのは、女性だけではなかった。
東京・渋谷の特別養護老人ホームでアルバイトとして働く篠田海斗さん(26)=仮名=に会った。表参道にも近いカフェ。コートも要らない暖かな夜だった。
「80代の女性の利用者さんと個室で2人きりになった時に、よく抱きつかれました。月に数回かな。朝の着替え介助が終わって個室から出るときに、抱きついてきたり……」

 別の80代半ばの女性利用者からは、腕を噛まれたり、爪を立てて腕をつかまれたりしていたという。
篠田さんによると、その女性は些細なことで怒った。認知症とあって本人にも止められない行為なのかもしれない。篠田さんは、頭でそう理解していても、体と心が傷ついた。女性利用者は何か気にさわることがあれば、立ち上がり、爪を立てて腕につかみかかってきた。転ばないようにその体を支えようとすると、噛みついてきたという。
篠田さんがこうしたつらい状況に置かれていたのは、1年ほど前、今のアルバイト先とは別のグループホームでのことだ。
当時は夜8時に夜勤シフトに入り、翌朝10時まで勤務。1回の夜勤で2万5千円になった。ただ、利用者のハラスメントにどう対応すべきかについては、上司や管理職に尋ねても明確な答えは返ってこない。
「この業界、時給はいいんだけどね。かなりつらいよ、介護の仕事は。今の介護職場では抱きつきや噛みつきはないけど、利用者さんからの罵倒はしょっちゅう。大きくメンタルをやられることはこれまでなかったけど、精神的なものはお金では買えないですしね」

撮影:穐吉洋子

1

2
板垣聡旨
 

記者。

三重県出身。ミレニアル世代が抱える社会問題をテーマに取材を行っている。

...
 
 
   
 

関連記事