いじめ、教師の暴力……私立学校、問題あっても「指導」に壁――教委は介入できず

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いじめ、教師の暴力……私立学校、問題あっても「指導」に壁――教委は介入できず(2020・1・10 Yahoo!ニュース特集)

 「私立学校で問題が起きたらどこに相談すればいいのか」と戸惑っている人たちがいる。例えば、教員から“暴力を受けた”とする子どもの親は「教育委員会が相手にしてくれず、どこも助けてくれません」と途方に暮れていた。受験科目以外を「未履修」とする進学校では、その事実すら保護者に知らせていない。独自の理念で運営される私立学校の教育や経営に対し、教育委員会は介入できない。教委は公立学校のみを対象としているからだ。では、私立学校でのいじめや未履修問題には、どこがどう対処するのか。「是正」「指導」は誰が担うのか。

撮影:穐吉洋子

◆児童同士のいじめ、担任の“暴力”

 首都圏の私鉄駅から歩いて10分ほど。住宅街と畑が入り交じる先に、3階建ての校舎があった。建設から10年足らずで、外観はまだきれいに見える。内部には随所に監視カメラがある。
この私立小学校で「先生の暴力が絶えません」と訴えている男子児童がいる。過去に何度かいじめを受けたともいう。

撮影:穐吉洋子

 2019年8月の月曜日。この小学校に通う高学年の優斗君(仮名)とその保護者に会った。駅前にあるチェーンのカフェ。夏休み中の男児は1年生のときから同級生によるいじめを受けているという。保護者が口を開いた。
「殴られることも蹴られることもあるようです。シャツのポケットが破れて帰ってくることもありました」
その後、同じカフェで何度も取材が続いた。
保護者の訴えはこうだった。
「1年生の2学期の終わりごろから、息子の様子が明らかにおかしくなって……。ご飯を食べない、水やお茶も飲まない。家のものを急に壊す。そのうち、学校の帰りに最寄り駅で降りず、遠くまで行くようになって。そして、登校拒否が始まりました」

 やがて優斗君は「いじめ」を打ち明けた。問題はその先にもあった。

撮影:穐吉洋子

 保護者は学校に行き、クラス担任に相談した。すると、担任が息子に暴言を投げつけるようになったのだという。保護者が続ける。

 「体育で草むしりする授業があったとき、先生が『おまえはでたらめが多すぎる』と言ったそうです。理由を聞いても『おまえがでたらめだからだ』と言うばかり。教室の授業で先生の質問に答えられなかったら『だからおまえは勉強ができないんだよ。おまえの志望校〇〇中学なんか行けねえよ』って」
本当にそんなことがあるのか。
保護者が学校に何度か電話をかけ、当の担任と話した。すると、担任はその都度、「なんでお母さんに話すんだ!」と優斗君に言うようになった。

撮影:穐吉洋子

 「5月の運動会はひどかったです。他の学年の競技を見学していたら、急にその担任に首根っこをつかまれ、列の頭から後ろに引きずられて。そこまでは、私が見てました。あとは、他の児童たちの陰で見えなくなって」
帰宅した息子が言うには、その後、ステンレス製のボトルで背中を殴られた。

◆「死にたいきもちで苦しいから、助けてください」

 2年生の夏休み前になると、優斗君は心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。週2回は学校を休み、残りの日は登校しても保健室で大半を過ごす、という状態だった。

優斗君(仮名)の診断書=一部加工しています(撮影:板垣聡旨)

 そのころ、保護者は優斗君の部屋で、封をする前の郵便を見つけた。法務省の人権擁護機関が配布した「子どもの人権SOSミニレター」。イラストをあしらった子ども用のレターセットで、相談したいことを子ども自身が書いて送付できるようになっている。
部屋にあったSOSミニレターには「死にたいきもちで苦しいから、助けてください」と書いてあった。
保護者が話す。
「封をとじていなかったので、出して読んでみました。涙が止まらなかったです」

法務局に送った手紙のコピー=一部加工しています(撮影:板垣聡旨)

 担任と話すだけでは事態が変わらないため、保護者は当時の校長にも訴えた。それでも、いじめや担任の対応は変わらない。学校に相談をしても無意味だと感じ、都道府県で私学を扱う担当課に相談したり、弁護士や警察に足を運んだりした。
「一人っ子ですし、良質な教育を受けさせたかった。この私立だったら、充実した施設・設備で質の高い専門教育を受けられると思ってました。でも、こんな状況になって……。行政に相談しようとしても窓口がないんです。私学には行政が介入できないらしいんです」
主治医やカウンセラーには、何度も転校を勧められた。
保護者も「転校しようか」と何回も優斗君に話してみた。ところが、その話になると、優斗君は今も「僕が悪いんだ」と口にするという。

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 この記事は<いじめ、教師の暴力……私立学校、問題あっても「指導」に壁――教委は介入できず>の一部です。2020年1月10日、Yahoo!ニュースオリジナル特集で公開されました。取材は、フロントラインプレスの板垣聡旨さん。
記事はこのあと、「教育委員会と私立学校の“距離”」「『未履修』でも見える教育行政との“距離”」「行政の関与、どこまで」「専門家『安易な介入はだめ』」と続きます。

 全文はYahoo!ニュースオリジナル特集のサイトで読むことできます。下記のリンクからアクセスしてください。Yahoo!へのログインが必要になることもあります。
いじめ、教師の暴力……私立学校、問題あっても「指導」に壁――教委は介入できず

板垣聡旨
 

記者。

三重県出身。ミレニアル世代が抱える社会問題をテーマに取材を行っている。

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