若者の“孤独”に向き合うNPO 「死にたい、消えたい」という相談から見えるもの

  1. オリジナル記事

◆ネグレクトされた自身の10代がベースに

 NPO法人「あなたのいばしょ」の立ち上げ背景には、大空さん自身の過去が深く関わっている。自身は育児放棄(ネグレクト)の家庭環境で育ったという。

 小学5年のある日、学校から家に帰ると母親の姿がなかった。離婚してしまったのだ。地域柄、離婚について敏感な雰囲気が漂っていたせいか、友人らに家庭事情の話をすることはなかった。母親が家を出たあと、もともと折り合いが悪かった父親との仲はさらに険悪になった。小学生なのに大の大人である父親と殴り合いのケンカに発展したこともあった。

 6年生になると、心身の不調が極まり不登校に。食事を取れなくなり、中学1年生の春には、入院することになった。そこから自殺を考えるようになったという。退院後は、父の元を離れ、母とその再婚相手と暮らしたものの、母たちは多忙のため中学卒業まで、1人で晩御飯を食べていたという。もちろん、学校に通わないことのほうが多かった。

 入院時の医師の勧めで、留学制度がある高校に進学した。母親のネグレクトは続き、留学時の大切な面談にも来なかった。担任の支援もあり、ニュージーランドに無事留学した。費用は父親の祖母の遺産を使った。

大空幸星さん(提供写真)

 

 1年間の留学から帰国すると、母の2度目の離婚と離職によって家庭の経済環境が一気に悪化した。大空さんは高校生にもかかわらず、夜勤のアルバイトをせざるを得なかった。そして、帰国から2カ月後、大空さんは深夜に担任の先生にメールを出し、「学校をやめます。死にたいと思っています」と告げた。

 翌朝、担任の先生が大空さんのアパート前に立っていた。これが大空さんの転機だった。

 アパートに来てくれた先生に自らのことを語り、聞いてもらい、高校へも通い始める。その後も幾度となく、担任の先生と話し込んだ。身近に頼れる人ができた。近くに相談できる人、頼れる人がいることの大切さ。それを心から実感しているのが、大空さん自身だ。

 「誰であっても頼れる人に相談できる環境が必要。それを作りたい」

 NPO法人の原点はそこにある。

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板垣聡旨
 

記者。

三重県出身。ミレニアル世代が抱える社会問題をテーマに取材を行っている。

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