SNSで自分の意見は多数派と思う人が陥る怖い罠 精査したと思っている情報がすでに偏っている

  1. オリジナル記事

間違った情報に接していることを見抜くのは困難

――「見たい情報だけを見る」というSNSの選択的接触は、大きな問題として認知され始めています。2020年のアメリカ大統領選挙では、SNS上で「陰謀論」が流布され、トランプ氏の敗北を事実として受け入れない人々が大勢出現しました。1000人を超えるトランプ氏の過激な支持者たちが2021年1月6日、大統領選の不正を訴え、首都ワシントンで連邦議会議事堂を襲撃しました。今も記憶に新しい、衝撃的な出来事でした。

陰謀論による政治活動「Qアノン」や連邦議会への襲撃を見て、「もしかしたら自分は当事者になっていたかもしれない」と思う人は、そうそういないでしょう。しかし、ある側面ではすでに彼らと同じような状況になっていてもわれわれは自分では気づけないんですよね。エコーチェンバーの問題はそこにあります。

そもそも、人間がまんべんなくすべての情報を仕入れてくることは事実上できないのですから、自分が少数派なのか間違った情報に接しているのかを見抜くことは極めて困難です。

むしろ偏った情報を信じている人たちのほうが「自分は情報をきちんと調べて精査して結論に至っている」と考えていることが多いようです。そのときに精査した情報がすでに偏っている可能性になかなか気づけません。

――先生はどんな研究を経て、エコーチェンバーの研究にたどり着いたのでしょうか。

普段は、ソーシャルメディアやニュース閲覧行動の分析、AI(人工知能)の社会応用などの研究をしています。直近ですと、2021年10月に豊橋技術科学大学と香港城市大学と共同で「保守の声はリベラルの声よりも中間層に届きやすい」という研究結果を公表しました。これは、安倍政権時代の安倍元首相に関する1億2000万件以上のツイートを解析した結果です。

この研究では、2019年2月10日から10月7日までにツイッターへ投稿された「安倍」または「アベ」を含むツイート(約1億2000万件)を収集しました。そこから、好意的または批判的なツイート群を抽出し、それぞれのツイート群を計10回以上ツイートしたアカウントを保守かリベラルに分けました。

その結果、保守派のツイートは23.23%が中間層に拡散されているのに対して、リベラル派のツイートは6.46%しか中間層に拡散されていませんでした。保守派のツイートを中間層が拡散する割合は、リベラル派より約3.6倍多かったのです。

政治に強い関心を持つ人でツイッターなどのSNSで政治について話をする人は諸外国と比べると、日本では少ないです。それもあって、リベラルの声はリベラル界隈内でとどまり、数の多い中間層に届かない実態が生まれているわけです。これは、いまの政治環境でリベラル派が苦境に立たされている要因の1つと考えてよいのではないでしょうか。

このような研究から、実は多くの人たち、とくに主義主張のある人たちは自分たちの周りに同じような主義主張の人たちが多いことから、多数派であると思っているようなケースがデータ分析をしているうちに多く見つかりました。エコーチェンバーはその分析の中で見られる普遍的な社会現象でしたので、これを分析することは社会を理解するうえで重要なことかと思い、研究を行っています。

1

2

3
板垣聡旨
 

記者。

三重県出身。ミレニアル世代が抱える社会問題をテーマに取材を行っている。

...
 
 
   
 

関連記事