国会議員268人の選挙「余剰金が行方不明」の謎 調査対象の6割、公開資料で使途を追えず(2019・6・17 東洋経済オンライン)
選挙で余ったお金の使途が確認できない――。各候補の選挙運動費用の収支を示す書類を分析すると、お金を余らせてその使い道を公開資料で確認できない現職議員が、衆参両院で268人いることがわかりました。調査や分析の対象とした議員460人の6割近くに当たります。余剰金には、国からの政党助成金や国が負担する選挙ポスター代などが含まれており、「公的」な性質を帯びています。
なぜ、こんな事態が起きているのでしょうか? 現行の制度に問題はないのでしょうか?
取材記者グループ「Frontline Press (フロントラインプレス)」と日本大学・岩井奉信教授(政治学)の研究室は、「選挙運動費用の余剰金」をめぐる全体像を初めて明らかにしました。
◆公開情報をベースに調査を開始
この共同取材では、衆議院は2014年12月、参議院は2013年7月および2016年7月の選挙を対象とし、各議員が選挙管理委員会に提出した「選挙運動費用収支報告書」の要旨を集めることから始めました。「報告書」は官報や都道府県の公報に掲載されており、誰でも入手可能。国立国会図書館でも閲覧できます。ただ、報告書提出の義務のない衆院比例代表に単独で立候補した議員などは、調査・分析の対象から外しています。余剰金が5万円未満の議員についても同様です。
選挙運動で余ったお金は「報告書」の数字から算出します。
必要な項目は3つです。まず、候補者が選挙資金として集めた「収入」。事務所の設営などに使った「支出」。そして、看板やポスター代などを税金で賄う「公費負担」です。
選挙運動の「収入」は、支持者からの寄付、政党からの資金、自己資金などから成ります。候補によっては多額の自己資金を「収入」に計上しているケースもあり、お金が余ったからといって、それ自体がすぐ問題になるわけではありません。ポイントは「余剰金の行方」です。
◆使途不明の最高額 約2725万円
共同取材チームは続いて、各議員に関係する政治団体の「政治資金収支報告書」に目を通すことにしました。
この報告書には、1年間の政治活動にかかったお金の動きが載っています。一方、選挙のときは公職選挙法によって、政治団体の会計とは別に、選挙用の会計帳簿を新たに作らなければなりません。そこに政治団体の資金を入れるケースが一般的。報告書を調べたのは「選挙後にお金が余った場合、再び政治団体に入れたのか」を確認するためです(ただし、政治団体は5万円未満の収入については、相手方の名称を報告書に記載する義務がない)。
対象は「余剰金」を出したすべての議員の政治団体です。すると、思いがけないことが次々に見えてきました。「余剰金」を政治団体に戻したことを確認できず、使途がわからない議員が268人もいたのです。それら議員の余剰金を合計すると、約9億5000万円。最高額は約2725万円でした。
共同取材チームにファクスで寄せられた各議員の回答。このほか電話やメールでも回答が届いた(撮影:穐吉洋子)
公選法は、余剰金の処理について何も定めていません。「政治団体への返却」や使いみちの報告も義務付けていません。ですから、余剰金をどう使っても公選法に触れることはないのです。
余剰金を政治団体に戻していたら、政治団体の収支報告書を調べることによって、余剰金の行方がわかります。では、政治団体に戻していなかったら? 「報告の義務がない」という壁に阻まれ、誰でも閲覧できる公開情報では追うことができなくなるのです。つまり、政党交付金や公費負担など「公的資金」でサポートされているにもかかわらず、余ったお金の行方を確認できないという事態が続出しているのです。
議員たちは、これをどう説明するのでしょうか。
◆議員たちの言い分「報告義務ない」
「公職選挙法では選挙運動費用の残金の使途について、とくに規定を設けていないし、報告義務もない。残金は法令に従って適正に処理しています」
余剰金の行方を確認できなかった議員への共同取材で、最も多かったのはこうした回答でした。与野党に違いはありません。自民党では、内部で“模範回答”が示されたのか、質問状に対し多くの議員が、一言一句、同じ文面の回答を寄せました。
余剰金に関する公選法の規定はないのに、「法令に従って適正に処理」とは、いったい、何を意味するのでしょうか。
「政治と金」に詳しい日大法学部・岩井奉信教授の話。
「『適正に処理』といったあいまいな言葉で逃げるしか方法がなかったのでしょう」 「政治活動に使ったなら、政治資金収支報告書に収入として余剰金の返却を記していなければなりません。それがないと、政治資金規正法違反(不記載)です。一方、余剰金を議員側が仮に私的流用していたとしても、それを公には言えないでしょう」
◆1円単位まで返却の議員「公金入っているから当然」
余剰金をピッタリ1円単位まで正確に政治団体に戻した議員はいるのでしょうか。
「ピッタリ組」は64人でした。
現職閣僚20人のうちでは、安倍晋三・首相、菅義偉・官房長官、山本順三・国家公安委員長の3人です。そのほかの主な「ピッタリ組」を見ると、自民党では、小野寺五典・前防衛相、野田聖子・前総務相、稲田朋美・元防衛相、田村憲久・元厚生労働相、高市早苗・元総務相、伊吹文明・元文部科学相らがいます。
野党側では、枝野幸男・立憲民主党代表、野田佳彦・社会保障を立て直す国民会議代表、大塚耕平・国民民主党代表代行、福山哲郎・立憲民主党幹事長、安住淳・元財務相、山本太郎・参議院議員らが「ピッタリ組」でした。
こうした議員は、現行制度の枠内で、余剰金の行方を可能な限り明らかにしたと言えます。
「ピッタリ組」では例えば、大塚・国民民主党代表代行の事務所は次のように回答しています。
「党本部の原資には政党交付金も含まれているため、余剰金が発生した場合には政党支部に戻すべきと考えている」
専門家は、余剰金の処理について公選法の見直しを指摘しています。
選挙をめぐる公費負担に詳しい日大法学部・安野修右助教の話。
「候補者のために税金が使われているのだから、余ったお金の行き先は公選法ではっきりさせるよう規定すべきです。しかし、自らを縛るような法改正に議員が踏み出せるでしょうか」
安野修右助教(撮影:穐吉洋子)
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この記事は<国会議員268人の選挙「余剰金が行方不明」の謎 調査対象の6割、公開資料で使途を追えず>の一部です。2019年06月17日、東洋経済オンラインで公開しました。全文をお読みになる場合は、下記リンクからアクセスしてください。
国会議員268人の選挙「余剰金が行方不明」の謎 調査対象の6割、公開資料で使途を追えず
これは、「選挙運動費用の余剰金」に関するキャンペーン報道の第1弾です。共同取材の狙いや背景などについては、以下をお読みください。
国会議員を対象にした「選挙運動費用の余剰金」の全調査(FRONTLINE PRESS)