「偽装請負」追及キャンペーン 調査報道で社会が動き、旧弊を是正

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「偽装請負」追及キャンペーン 朝日新聞(2006年)

 

[ 調査報道アーカイブス No.27 ]

 朝日新聞東京本社編集局は2006年4月、調査報道を専属的に手掛ける「特別報道チーム」を記者13人で発足させた。その初顔会わせの会議で、経済グループ出身の記者が偽装請負に関する資料を他のメンバーに配布する。のちに経済界を揺るがすことになる一大キャンペーンの出発だった。参加した記者の大半が初めて聞く「偽装請負」という言葉。それについて、経済グループの記者は資料を基に次のように説明したという。

 「通常の業務請負や業務委託などの場合、メーカーなどからは仕事の発注のみが行われ、請負側は作業責任者を置いて配下の作業員に指示を出す。偽装請負となるケースは、請け負った側が作業員のみを派遣して、メーカー側などの社員が作業指示を行っている状態を指す。偽装請負の実態は労働者派遣そのものなのに、請負契約を装っているため労働者派遣法は適用されず、一定の年限が来ても直接雇用の申し込み義務も発生しない」

 「したがってメーカー側は、同じ顔ぶれの作業員を何年でも低コストで都合よく働かせることができるし、仕事がなくなればいつでも首切りや使い捨てができる。総人件費の削減を命題にする生産現場では、1990年代後半から偽装請負が蔓延していくが、当事者からはほとんど声が上がらず、行政は実態把握や取り締まりを怠ってきた。偽装請負は法律的には通常、労働者派遣法違反として扱われるが、悪質な偽装請負は罰則が重い職業安定法違反となる」

 取材はこの年の5月から本格的に始まり、特別報道チームの記者9人が参加した。チームの総力戦に近い。記者たちは全国の労働局などに取材を繰り返す。キヤノングループの企業が偽装請負で是正指導を受けていたことを手掛かりに深掘りし、ユニオン(合同労組)にも偽装請負に関する相談が労働者から寄せられていることを知った。

 記事の第1弾は7月31日朝刊の1面トップ。「偽装請負、製造業で横行 実質は派遣、簡単にクビ 労働局が調査強化」という大見出しだった。偽装請負の蔓延企業として、キヤノンや日立製作所などを実名で追及。経済界は、この日の記事をとらえて「7・31ショック」と称したとされる。

 キャンペーンは翌07年3月末まで続き、掲載記事は計約60本を数えた。朝日新聞の報道がきっかけとなって、まず、キヤノンが偽装請負の一掃に乗り出し、請負業者との契約を派遣に切り替えた。さらにグループ全体で2万人に上る請負や派遣労働者のうち、数百人を正社員採用する方針も示した。松下電器産業やトヨタ自動車の関連会社でも、偽装請負で働かせていた作業員を直接雇用する動きが相次いだ。

 偽装請負をチェックする側にとっても「7・31ショック」は大きかったようだ。

厚生労働省は2006年9月、「労働基準行政、職業安定行政の共同監督の強化」「労働者派遣法に基づく告発、行政処分」などを盛り込んだ通達を都道府県の労働局長に出し、偽装請負の根絶に向けた取り組みを急がせた。

 この「偽装請負」追及キャンペーンで、朝日新聞の取材チームは2007年度の石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞した。行政が是正に乗り出した点に重きを置いて考えれば、このキャンペーンはまさに「調査報道で社会が変わる・調査報道が社会を変える」を地で行く展開だったと言ってよい。

■参考URL
単行本「偽装請負」 (朝日新書/著:朝日新聞特別報道チーム)
労働者派遣事業関係 > あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ?(厚生労働省)
社内“偽装請負”の実態 英字紙組合員が告発(朝日新聞)
福島第1原発事故 廃炉、外国人に偽装請負か 汚染水対策、人手不足 事前教育も不十分(毎日新聞)

本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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