「特権を問う」首都・東京の米軍の実態を動画でも

  1. 調査報道アーカイブズ

「特権を問う」 毎日新聞(2020年〜)

 

[ 調査報道アーカイブス No.19 ]

 少し前の「調査報道アーカイブス」では、2010年の地方紙連携によるキャンペーン報道を紹介した。米軍基地といえば、沖縄に目が向きがち。しかし、神奈川新聞と長崎新聞、沖縄タイムスの3紙は当時としては珍しい合同取材チームをつくり、佐世保(長崎県)や横須賀・座間(神奈川県)などの米軍基地の実態を広く社会に伝えようとした。

 その10年後。2020年2月末から始まった毎日新聞の調査報道キャンペーン「特権を問う」は、同じような問題を扱いつつも、報道が進む中で焦点を首都・東京に絞って取り上げた。日本の法規制を逃れ、渋谷や新宿など都心のど真ん中で超低空飛行を繰り返す米軍機。その実態を動画もふんだんに使いながら、首都圏住民という地元目線で見せてくれる。

 日米安保条約によって日本に駐留している米軍は、日米地位協定によってその法的位置付けなどが定められている。不逮捕や第1次裁判権などの問題も、根拠はここにある。毎日新聞の取材班は今年に入り、首都・東京での米軍の実態を繰り返し報道した。多くの国民は地位協定や米軍の実態に強い関心を抱いていないと思われるが、「特権を問う」の中の首都・東京に絞ったコンテンツ群は、「この問題はあなたの身近な問題なんですよ」と呼びかける姿勢に満ちている。主要な記事の見出しを並べてみよう。これだけでも、日常に潜む異常さが見えてくる。

「米軍ヘリ、低空飛行常態化 新宿上空で 動画撮影し確認」(2月24日)
「歌舞伎町→上野→浅草 危険飛行の米軍ヘリ、都心で何を?」(同)
「米海軍ヘリ『シーホーク』 渋谷駅、東京タワー周辺で低空飛行」(2月26日)
「米軍ヘリ、六本木でタッチ・アンド・ゴー」(3月3日)
「スカイツリー目標に実践訓練か 米軍ヘリ、展望台付近を6回通過」(3月5日)
「『なぜ都心でやるのか』元米軍人も首をかしげる」(3月31日)
「米軍、17年から照会応じず 住民苦情 防衛省、通知遅らす」(6月21日)

 日米地位協定によって米軍は日本の航空法の縛りを受けない。そのため、日本の遊覧飛行機も飛べない超低空も飛行できる。訓練か? 単なる遊覧か? 渋谷や六本木といった都会の真ん中で何気なく耳にする、ヘリの音。その中にはこうした米軍の実態が埋もれていたのだ。毎日新聞記者は半年以上もの時間をかけ、首都上空の監視を続けたという。空を見上げるだけでなく、時には高層ビルから超低空飛行の米軍機を確認。動かぬ証拠として動画にもしっかり収めた。

 毎日新聞ニュースサイトを覗くと、2021年8月末現在、「特権を問う」の特設ページには89本の記事がアップされている。明るみになったのは、東京の実例だけではない。また、首都・東京の低空をわが物顔で飛ぶ米軍機の動画も多数アップされている。文字や写真だけではない新しい見せ方としても参考になる。

■参考URL
特権を問う(毎日新聞)
YouTube「特権を問う・米軍ヘリ首都異常飛行(1) 新宿駅の真上で低空飛行が常態化」

【記事の修正情報】
※2021年10月16日 21:16 写真を差し替えました。

高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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