違法捜査の実態 判決前に暴く 「志布志事件」報道

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「志布志事件」報道  朝日新聞鹿児島総局(2006年〜)

 

[ 調査報道アーカイブス No.17 ]

 鹿児島県議会議員選挙をめぐる「志布志事件」と言えば、冤罪事件の代名詞である。殺人などの凶悪事件ではないものの、逮捕者の数や常軌を逸した捜査の実態などからすれば、“代名詞”もうなずけるはずだ。

 2003年4月13日の鹿児島県議会議員選挙で酒や現金などによる買収があったとして、鹿児島県警は中山信一議員をはじめ住民ら計15人を公職選挙法違反容疑で逮捕した。事件の舞台は、志布志町(現・志布志市)の懐(ふところ)という小さな集落だ。全体でも6世帯しかいない。逮捕された15人はいずれも高齢者で、うち13人が起訴(1人は公判中に死亡)。しかも全員が無罪となった。
 警察の捜査はひどかった。密室で自白を強要されたり、数カ月から1年以上の長期勾留されたり。供述調書の捏造も行われていたなど、違法捜査のオンパレードだった。公選法違反事件は警察権力によるでっち上げだった。

 この事件を「冤罪の疑いが強い」として最初に問題視したのは、テレビ朝日の報道番組「ザ・スクープ」だった。2005年2月13日の放送で、被告や県警捜査員など事件関係者へのインタビューを通し、捜査の実態を明らかにした。

 続いて追及に動いたのは、朝日新聞鹿児島総局だった。2005年4月に着任した梶山天・総局長はまず、公判の異常な長さに疑問を持つ。公選法違反事件は通常、裁判所が起訴状を受理してから判決まで「100日裁判」で終わる。それなのに、なぜ、2年も費やしているのか。さらに起訴状に目を通した梶山氏は、買収会合の日時が特定されていないことなどから捜査そのものに強い疑念を持った。
 総局長自らが取材に動き、県警内部での取材協力者づくりを試みた。キーパースンを探し出しては説得に説得を重ねていく。
 「梶山さん、あんたの言ってたのが本当だ。全部命令されて嘘の(供述)調書も作った。事件自体が初めからなかった。間違いない」――。やがて、こんな証言を県警捜査員から引き出した梶山氏は、物証として供述調書の下書きに当たる「取り調べ小票」を入手した。総局員たちは被買収で逮捕・起訴された被告らを訪ね歩き、小票に記載された内容が本当かどうかの裏付け取材を進めていく。
 朝日新聞の紙面に「架空供述迫り調書 否認の男性に 公選法違反事件―鹿児島県警」というスクープが掲載され、冤罪キャンペーンが始まったのは2006年1月からだ。被告全員に無罪判決が出る1年以上も前である。社内では「裁判中の案件は触らないものだ」「有罪判決が出たらどうするんだ」といった声も根強かった。鹿児島総局のキャンペーンは、こうした社内の逆風との戦いでもあった。

■参考URL
単行本「虚罪―ドキュメント志布志事件」(著:単行本朝日新聞「志布志事件」取材班)
単行本『「違法」捜査 志布志事件「でっち上げ」の真実』(著:梶山天)
富山事件及び志布志事件における 警察捜査の問題点等について(警察庁)
志布志・選挙買収冤罪 虚偽の自白なぜ? 無罪確定も「まだ犯罪呼ばわり」(西日本新聞)
無罪となった志布志事件の国家賠償訴訟の闘い(論座)

本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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