◆公金マネーロンダリングの隠れ蓑 “書類上だけの官官接待”
開示された書類には、飲食店側の請求書もあった。店名は黒く塗り潰されているが、ホテルや高級店はオリジナルの請求書を使っており、店やホテルはほどなく特定できた。請求書の番号を読み解くと、エラーコード(簿外処理に用いる記号)も使われている。やがて「実際に宴会は開かれていません」「道庁の求めに応じて架空の請求書を発行していた」と取材に証言する飲食店やホテルが続出した。何のことはない、多くの「官官接待」はなかったのである。
やがて構図は見えた。
道庁は親しいホテルや飲食店に金額だけを指定した虚偽請求書の発行を依頼し、店側が応じる。すると、その金額が道庁から振り込まれてくる。その時点では何の飲食も提供していなから店側は預り金や簿外で処理する。そこに道庁職員がやってきて、タダのみ・タダ食いの原資として使うのだ。また店側にプールされた巨額の税金は、巨額のキャッシュで道庁にバックされることもあった。ホテルは利用券にして戻し、道庁はそれを金券ショップで現金化するなどした。すさまじい公金のマネーロンダリングである。こうして、道庁の裏には巨額の裏金がプールされた。その一部は、中央政界や霞が関に“上納”されていたという複数の証言もあった。
裏金作りには何が必要だったか。「予算の現金化」である。それを支えたのが「中央省庁の役人を接待した」という架空のストーリーだったのだ。実際に行われた「官官接待」もゼロではなかったが、問題はやがて、カラ出張・カラ会食・カラ会議などの「カラ〜」に姿を変えていく。カラ修繕、カラ工事、カラ超勤、カラ雇用……もう何でもありだった。筆者たちの取材チームはひたすら、開示された公文書とにらめっこし、丹念に関係者の取材を重ねた。取材結果はやがて、以下のような見出しの記事となって北海道新聞紙上で実を結んだ。いずれも1996年春のことである。
飲食店でも食糧費不正 店主証言「架空請求書を作成」(4月18日朝刊)
堀知事、カラ会食疑惑 ホテルに記載なし「請求書は架空」(4月22日朝刊)
「請求書書き換え」「会食はなかった」店側から証言ボロボロ(4月23日朝刊)
◆公文書 黒塗りの下にはウソが書いてある
半年以上に及んだ「北海道庁不正経理」取材の結果、北海道は最終的に、不正経理の総額は74億円超だったと認定した。ただし、この調査報道の要諦はそこにはなかったと感じている。では、ポイントは何だったか。それは、支出関連の公文書に記されていた内容の多くが、そもそも虚偽だったことを暴いた点にある。都合の悪いことを隠すために、架空のストーリーを会計書類に記載しているのだ。開示請求で出てくる文書は肝心な箇所が黒く塗り潰されているが、地道な取材で黒塗りの下に何が書かれているかを掴んだとしても、それが虚偽なのだ。
一連の取材が「官官接待」レベルにとどまっていたら、裏金づくりを隠すための架空のストーリーにそのまま乗っかり、「官官接待は是か非か」だけを論じていたかもしれない。その怖さを思い知らされた半年間でもあった。
■参考URL
単行本「醜い官僚たち 「官官接待」の闇」(毎日新聞社会部)
単行本「社会を変えた情報公開 ドキュメント・市民オンブズマン」(杉本裕明)
全国市民オンブズマン連絡会議(公式HP)
朝日新聞×HTB 道庁でカラ出張やカラ接待などで裏金を捻出する公費不正支出が発覚(YouTube動画)
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