◆日大背任・脱税事件の背後を追う調査報道
「調査報道」を掲げる新たなメディアが、また一つ立ち上がった。阿部重夫責任編集の新メディア「ストイカ」。論壇中心だった紙媒体の「ストイカ」を一新し、調査報道を軸とするネットメディアに衣替えした。早々に『「田中」日大の政官共犯者』『藤兵衛伝』といった重厚なストーリーを展開している。
連載『「田中」日大の政官共犯者』は、日本大学の理事長による背任・脱税事件に潜む腐敗の構造をあぶり出すもの。初回の『松野官房長官「黒塗り」の足跡』は、こう始まる。
日本大学の前理事長、田中英寿(75)は就任から13年間もこの日本最大の学校法人に君臨し続けた。利権を吸い上げる暗部を最初に報じたのは10年前、わが古巣の月刊誌2012年1月20日号だった。当局がなかなか動かず調査報道は孤立無援となり、名誉毀損訴訟4件は記事の真実相当性を認めてもらえなかったが、これでやっと見返すことができた。今まで田中が手付かずでいられたのは、浄化の効かない学校法人の内部ガバナンスに欠陥があったからだけではない。核心は、外から彼を守った政官および裁判所の「見て見ぬふり」にある。みんなグルで「怪物」を野放しにしたのだ。隠されているその恥部を暴こう。
これに続く2回目は『國松・元警察庁長官、二度目の屈辱』。チーム・ストイカは、そのリードで「不覚にも自らが撃たれた事件が迷宮入りという屈辱を味わった元長官は、今度は警察の”日大お目こぼし”の人質になっていたのか」と書く。
一方の『藤兵衛伝』は、フリーライター伊藤博敏氏が筆者だ。「籐兵衛」とは誰のことか。初回の『気がつけば簀巻きの「修羅」』でこう記されている。
日本の戦後史には、書かれざる死角がある。京都・山科の「夙」に生まれ、没落と反抗、暴力と抗争の修羅場を経て、自民党系同和団体のドンとなった上田藤兵衛の人生は、「バブル」の絶頂と崩壊の裏面史でもある。政治と組み、水平社—解放同盟陣営に対抗したその軌跡を、いま本人が語りだす。時代の最深部で差別と切り結んだ「包摂」とは何だったのか。
◆目指す「調査報道のシンジケート」とは?
ストイカを主宰する阿部氏は元日本経済新聞の敏腕記者として知られ、いくつもの調査報道スクープを手掛けてきた。退社後は情報誌『FACTA』の編集長などを務め、2019年10月に雑誌「ストイカ」を立ち上げていた。新たなサイトの発足に際し、阿部氏はこう記している。
21年、コロナ禍の状況に鑑みて、流通に負荷のかかる紙媒体からオンラインに移すことを決めた。
それを機に単なるニュースサイトでなく、「借り物でない調査報道のセレクトショップ」としてプラットフォームを設計することにした。志を同じくするジャーナリストの独立系サイトと連携、リンクを張ってスター・ウォーズ連合軍のようなシンジケートをめざす。
ネットメディアが普及しても年々稿料が低下していくため、フリーランスのジャーナリストはむしろ廃業の危機に直面している。それに歯止めをかけ、報道からフェイクを追放する一助としたい。
調査報道の旗を掲げるメディアは日本でも少しずつ増えてきた。ただ、どこも規模は小さく、組織力や影響力などはまだまだ十分ではない。大手報道機関の調査報道が衰退する中、こうした調査報道メディアはどこまで踏ん張ることができるか。私たちフロントラインプレスも含めて、挑戦は続く。
(フロントラインプレスとストイカは調査報道の発展のため、お互いに今後協力していくことになりました)
■関連
ストイカ(公式サイト)
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