◆国内産の8割が“熊本県産” その大半が中国産・韓国産だった
全国のスーパーに並ぶ“熊本県産アサリ”が実は、中国産だったー。アサリの大規模な産地偽装が明るみになり、スーパーの食品売り場から次々と“熊本県産”が消える事態になっている。
農林水産省の2月1日の発表によると、2021年10〜12月、全国のスーパーなど1005店を対象にアサリを買い上げて調査したところ、期間中、全国で3,111トンのアサリが販売され、そのうち約8割、2,485トンが「熊本産」「熊本県産」と表示されていた。ところが、熊本県でのアサリ漁獲量は2020年の1年間で21トンしかない。農水省のDNA検査によると、熊本県産アサリの大半は中国沿岸や朝鮮半島西岸で産出されたものだった。こうしたことから、熊本県産アサリの大半は産地偽装だった疑いが濃厚となった。
熊本県では蒲島郁夫知事が同じ1日に記者会見し、2月8日から2カ月程度、県産アサリの出荷を停止すると発表した。これにより熊本県産のアサリは2月11日以降、市場に出回らない。また、すでに全国のスーパーなどでは「熊本県産」が一斉に姿を消している。既に仕入れた分の廃棄や、「外国産」へのラベル変更などに追われた。国内産の大半は「熊本県産」と表示されていたことから、こうした措置により、しばらくは国内産アサリについては商品を見かけなくなったり、高騰するかもしれない。
◆名古屋のCBCテレビ、3年間の調査報道取材
産地偽装を明るみに出し、改善に向けて行政や漁協を動かしたのは、愛知県名古屋市の放送局・CBCテレビよる3年越しの調査報道だった。三河湾を抱える愛知県は全国一のアサリの産地。愛知県内のであることから、この取材に取り組んだ。
日本国内のアサリ漁獲量は1990年からの30年間で、20分の1に激減した、ところが、品薄になったはずの国内産の市場価格がほとんど上がらない。一方、大量に輸入されているはずの中国産・韓国産の活アサリは小売店でほとんど見かけない。それはなぜか。CBCの取材班は「流通の段階で産地が違法に書き換えられているのではないか」という漁業関係者の指摘を受け、取材を始めた。最初の報道は、2019年6月6日。ドキュメンタリー番組『「中国産が日本産に“化ける” アサリ産地偽装の闇』だった。その中で、三河湾のアサリ漁業者は語っている。
これだけ漁獲量が減っている中で、アサリの値段が上がってこない。スーパーで見ると、熊本、熊本、熊本。熊本県産が安売りされている以上、うちらもどんどん値を下げなければいけない。
こうした声に突き動かされ、取材班は熊本へ。番組では、有明海沿岸で夜間に大量の外国産アサリがトラックで次々と運び込まれ、干潟にまかれる様子を視聴者に見せる。しばらくして、そのアサリを獲ると、熊本県産に化けているという寸法だ。まじめにやっているのがバカらしい、という熊本の漁師の肉声も取材した。番組はドキュメンタリーとしては短く、13分ほどの長さしかないが、見応え十分だ。
◆産地偽装に手を染めていた会社社長が実名・顔出しで証言
さらにことし2月1日には続報となる『【取材3年アサリ産地偽装】あなたが食べているのは本当に熊本産? 産地偽装の業者が顔出し証言 追跡取材で大規模な不正の実態が明らかに』を放送した。タイトルにもあるように、実際に偽装に手を染めていた福岡県の水産物卸売会社の社長が実名・顔出しで取材に応じ、実態を赤裸々に語っている。食品表示法は「輸入品は原産国名を表示する」と定めているが、アサリなどの水産物には例外があり、2カ所以上で育てた場合、育った期間が長い場所を原産地として表示することを認めている。この制度を抜け穴として利用。各種証明書を偽造するなどして、実際は短期間しか国内で育てていないにもかかわらず、法律に適合しているかのように装っていたという。
CBCテレビはJNNに属している。その基幹局であるTBSの報道特集は上記番組に先立つ1月22日、『輸入アサリが国産に アサリ産地偽装の実態は』を放送した。JNNによる調査報道スクープだった。全国ネットの威力は大きく、熊本県によるアサリ出荷停止措置などはこの番組を機に、対応が始まっている。調査報道は社会を動かす。それを余すことなく示す、3年間の取材だった。
■参考
CBCテレビ『「中国産が日本産に“化ける” アサリ産地偽装の闇』(2019年6月6日)
CBCテレビ『【取材3年アサリ産地偽装】あなたが食べているのは本当に熊本産?』(2022年2月1日)
TBS報道特集『輸入アサリが国産に アサリ産地偽装の実態は』(2022年1月22日)