◆カネと情報を媒介にした大企業・日本郵便と自民党の不透明な関係
会社経費で自社のカレンダーを購入し、自民党の支持者に配る。その際に顧客の個人情報を利用するー。日本郵便を舞台としたこの問題で、同社は2月1日、関係者を処分したと発表した。しかし、本当に全容は解明されたのか。西日本新聞と朝日新聞の調査報道で明るみに出た日本郵便と政治の不透明な関係には、まだ続きがあるかもしれない。
日本郵便の発表によると、会社経費で購入したカレンダーを政治活動に利用した際、顧客情報を業務外で利用したとして、小規模郵便局の局長ら112人を処分した。内訳は、個人情報の流用や流出を認めた局長104人が注意処分。自ら「指導が不十分だった」と認めた地区統括局長6人も注意処分。また、常務執行役員2人も監督責任を問われ、月額報酬の10%分を1カ月間減額する。役員以外はいずれも「注意」処分で済まされた。日本郵便はこの処分をもって「顧客情報の政治利用」問題に幕引きしたい考えだが、処分のベースとなった同社の内部調査に対しては「不正認定は氷山の一角」「国民目線では納得できない」との指摘も多く、先行きは予断を許さない状況だ。
◆西日本新聞と朝日新聞の調査報道で明るみに
日本郵政による「顧客情報の政治利用」問題は、西日本新聞と朝日新聞が火をつけた。西日本新聞は昨年10月、全国の郵便局長が「郵便局長の見つけた日本の風景」という自社カレンダーを会社経費で購入し、自民党参議院議員の支援者らに配布していたとスクープ報道した。
一方、朝日新聞は同じ時期、小規模郵便局の局長による任意団体「全国郵便局長会」(全特)の複数の地方組織の内部資料を入手。今夏の参院選に出馬する「全特」推薦候補の得票につなげるため、顧客情報を使って支援者の獲得するよう、小規模郵便局長らに指示していた実態を明るみにした。
◆「不正は氷山の一角」「原因が解明されていない」
こうした報道を受けて日本郵便は自主調査を開始し、今年1月21日に結果を公表していた。それによると、104人の郵便局長が顧客1318人の顧客情報を「全特」の政治活動のために使ったことが判明したという。しかし、朝日新聞の報道によると、不正と認定したのは局長の自己申告分だけで、不正が横行した原因や背景は示されなかった。また、顧客を狙った政治活動の指示が複数の地方郵便局長会で出ていたことを確認したのに、指示したとみられる局長会役員らへの調査は不要だとしている。このため、総務省の有識者会議では「調査終了は論外」「原因にメスが入らないとまた起きる」などの批判が相次いだという。
西日本新聞も日本郵便による自主調査の発表後、「自己申告したケースだけを不正認定しただけで、処分は氷山の一角」「会社は実態を直視して改善する気が全くない」「正直者がバカを見る調査結果」といった小規模郵便局長らの憤りの声を伝えている。
『郵便局長110人に「注意」処分、顧客データ流用で日本郵便』(朝日新聞デジタル 2022年2月1日)
『「現場に責任押しつけ」「正直者がばかを見る」 日本郵便調査に憤る局長たち』(西日本新聞 2022年1月22日)
『郵便局長が「会社経費で政治活動」問題で新展開 きっかけは西日本新聞の調査報道』(フロントラインプレス 2021年12月23日)