【独自】乱発? その基準はどこにあるのか 報道界の判断を読み解く記事

  1. おすすめニュース

◆【独自】の基準を全国紙・民放各局に聞いた結果…

 見出しに【独自】と付されたニュースをよく見かける。この【独自】とは何か。その基準はどうなっているのか。当局の発表を時間差で報じただけのニュースも独自? 地道な取材に基づく調査報道こそが独自?

 そうした疑問に答えようとする弁護士ドットコムニュースの記事『ネット記事に広がる【独自】の基準は? 全国紙・キー局・弁護士に聞く』が興味深い。【独自】の基準について、全国紙5社・テレビ4局に取材し、その回答を紹介したものだ。このうち、読売新聞社は、発表事案であっても個別取材の要素を盛り込んだ記事については、過去の一時期、【独自】と付していたことを明かしている。それを踏まえ、記事はこう綴っている。

 各社の回答からは、ぼんやりながら、独自ネタに関する各社のスタンスがうかがえる。また、読売新聞の回答からは、当局が記者クラブ等に発表するような情報でも、場合によっては【独自】としていたものの、今ではその運用を中止したという経緯もわかった。記者が入手した読売新聞社内の【独自】表記に関する資料と照らしあわせても、今回の回答内容に矛盾する点はなかった。

 記事はさらに、景品表示法に詳しい池田毅弁護士のインタビューも掲載した。この中で同弁護士はこう指摘する。

 政府や省庁の発表、首相の発言など、いわゆる大本営発表に日本のニュースの多くは頼っていて、他社と似たり寄ったりで、互いの記事を追いかけている。今回の各社の回答からは、ある意味、そのような自認を感じ取れます。

◆目立つ読売新聞の【独自】 その内情は…?

 この問題に関しては、プチ鹿島氏が弁護士ドットコムニュースよりも先に文春オンラインで『既報のネタでも【独自】って? スクープとは違うの? 《読売新聞の【独自】って何だ問題》新聞表記の“素朴な疑問”を聞いてみた!』と題する記事を公開している。記事は以下のような疑問から始まる。

 ここでしか読めない記事も確かにあるのですが、「独自(=スクープ)」だと期待して読んでみたら「これ、他ですでに読んだぞ」というものもある。一体どういう基準で出しているのだろう?

  ◇  ◇

 読売の「独自」記事はよくチェックしているのですが、最近とにかく「独自」が多いのだ。しかも冒頭にも書いたようにこれって他がすでに報じていたよな? という“独自記事”もある。

 プチ鹿島氏の“独自”取材によると、読売新聞の【独自】の基準は次のようなものだった。

 ざっくりいうと「もともとはスクープ記事につけていたけど→その後は記事に新要素が入っていれば既出のテーマでもつけていた→でも内部からも批判があり、スクープ記事のみに」という流れらしい。

◆日本では「スクープの基準」があいまいなままだった

 スクープや独自記事に関しては、次のような指摘もある。語っているのは、朝日新聞記者で大阪地検特捜部の証拠改ざん事件の調査報道を手掛けた板橋洋佳氏。結構、重要な指摘である(インタビューの聞き手はフロントラインプレス代表の高田昌幸)。

 重要だと思ったのは、新聞社組織の中に、本当のスクープとは何か、という定義がないことです。これ、結構大きな問題です。スクープの定義がないということは、「明日は逮捕」という形の、いわゆる前打ちもスクープ、発表ものを発表前に半日早く書くこともスクープ。他方、大阪地検の証拠改ざん報道もスクープです。おそらく、「調査報道とは何か」の研究をしていくと、「スクープとは何か」という話になると思います。もちろん、その記者しか暴き出せない埋もれた事実を明らかにすることが本当のスクープだし、それはみんな、頭ではわかっているでしょう。けれども、それを念頭に社内でスクープの基準を明確に使い分けているかというと、そんなことはありません。

 いったい【独自】とは何か。スクープとは何か。取材のプロセスがほとんど可視化されていない現状では情報の受け手にとって、それらの見極めは難しいが、ここに紹介した記事はその参考になりそうだ。

『ネット記事に広がる【独自】の基準は? 全国紙・キー局・弁護士に聞く』(弁護士ドットコムニュース 2022年2月12日)
『既報のネタでも【独自】って? スクープとは違うの? 《読売新聞の【独自】って何だ問題》新聞表記の“素朴な疑問”を聞いてみた!」(文春オンライン 2021年11月30日)
『「スクープ」とは何か~新聞社は「時間差スクープ」の呪縛を解け!「スクープの基準がない」ことが権力監視のジャーナリズムを阻んでいる』(高田昌幸、論座 2020年6月21日)

 
   
 

関連記事