◆「個人情報」の高いハードル
捜査情報の共有を妨げているのは、刑事訴訟法47条だと多くの関係者は指摘する。捜査情報の書類は、公判前に公表してはならないという規定だ。ただ、藤田さんはそれ以上に法や条例で守られている「個人情報」のハードルの高さを感じているという。個人情報保護法は「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進」目的を例外事由としているが、情報提供を義務付けているわけではない。
例えば、事件性は認められなかったが異状死などの死因究明のために行う行政解剖。CDRが、この行政解剖の結果を求めた場合、医療機関や遺族の同意がなければ情報は出てこない。行政解剖は司法解剖ではないため、捜査情報に当たらないにもかかわらずだ。藤田さんの指摘は、CDRにおいて個人情報保護の制度が厚い壁となって立ちはだかり、捜査情報以外にも収集できない情報が多すぎるという点にある。
「自分が(子どもを)死なせたと思っている人から情報を取れずに、『(死の原因が)わかりませんでした』は、CDRの目的と離れています。『私はこの情報を渡したくない』と思っている人からこそ、情報を取れなくてはいけない。だから、CDRのために立法で情報収集の規定を作っていく必要がある。CDRの検証委員会から、情報を求める依頼が来た場合は、努力義務でもいいので出すように努めなくてはならないという条文があるといいと思います」
わが子の死の真相を知りたいが、情報を提供すれば自分の責任を問われかねないとなれば、進んで情報提供に同意する遺族は限られるだろう。医療機関や教育機関も同じだろう。だからこそ、法改正や新規立法が早急に望まれている。
では、刑事訴訟法47条はどうだろうか。その改正はないだろうと藤田さんは考えている。捜査情報が表に出ることの弊害があまりにも大きいからだ。被疑者が逃亡するような事態にでもなれば、刑事訴追はおろか、原因究明もできなくなる。では、判決が出たり、不起訴が確定したりして、捜査が終わった案件はどうだろうか。
「捜査が終わった事案について、CDRの検証ができているか。刑事訴追が終わった、あるいは検察が起訴しないことが確定したものについては、なんとなく、薄らぼんやり終わるんです。そうすると、CDRの検証リストには絶対載らない。捜査が終わったら(刑事訴訟法47条の縛りを外れるので)CDRに載せてもいい。仕組みとしては、捜査終了の段階で捜査情報を使ってCDRで検証はできるはずです。(検証のタイミングは後ろに)ずれ込むことになりますが。それに、捜査を諦めて、原因がわからなくなっている子どもの死について、CDRが手を付けられないとなると、どの機関によっても検証されないものが出てきてしまう」
取りこぼしのない全件調査の実施こそが大事だと藤田さんは考えている。今年度と次年度、あるいは、起訴と不起訴、そうした隙間に入り込み、検証から漏れる事案がないようにしたい。その点にもCDRの存在意義はあるという。