虐待防止にどう生かす「子どもの死亡検証制度」 藤田香織弁護士に聞く こども家庭庁とCDR【2】

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◆司法と福祉で死因をめぐる見解が違う?

 どの機関からも調査されず、マスメディアが報じることもない。なんの注意喚起もされずに不幸な事故として片付けられる。そのような事案は存外多い。原因不明の子どもの死亡の筆頭に上げられる乳幼児突然死症候群(SIDS)がまさにそれだ。

 「死亡原因が窒息死だった場合、SIDSによるものか、口を塞がれたのか、あるいは誤飲なのか、そこを調べていく。誤飲だった場合は、ネグレクトの結果の誤飲なのか、本当に事故で誤飲しちゃったのか」

 その見極めには解剖が欠かせない。しかし、解剖率は施設や法医の数などが原因となって都道府県にばらつきがある。全国平均はおよそ11%。CDRが進んでいる諸外国、例えば英国の約40%と比べると相当に低い。

 「SIDSと言われている事例が全部そうなのか? 毒殺、高カリウム、はたまた遺伝子疾患かもしれない。『これ、怪しい』と調べても、結論が出ないままのこともあります。児童相談所が関わった中にも、SIDSで亡くなっているお子さんがいます。警察も捜査し、結局立件されなかったということもありました」

 今年2月、神奈川県大和市で3年前に7歳の男児を死亡させたとして母親が逮捕される事件があった。この母親のもとでは、過去に3人の子どもが不慮の死を遂げていたこともわかった。中には、死因がSIDSだったとされていた乳児もいた。担当地域の児童相談所は、男児の施設入所を家庭裁判所に申し入れたが認められなかったという。

 司法(警察)と福祉(児童相談所)、医療といった異なる土壌で、死をめぐる見解が異なっていく。それは、無罪判決が続く乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)にも当てはまる。

 「児童相談所としては、おうちの中で子どもが死ぬのはとても嫌なこと。裁判で無罪になり、『SBSではなかったでしょ』とお父さんに言われたとします。『でも、おうちで亡くなってますよね、その理由はわかりますか』と聞くと、『ちょっとよくわからない』と。どうして子どもが亡くなったのか、それがわからないまま、その家にもう一度、子ども(兄弟)を戻すということを考えなくちゃいけない。これは危険です。だけど、無罪は無罪。判断がすごく難しい」

 その難しさを克服するためにも、多職種のプロが集まって、それぞれの考え方を理解していくCDRには意義がある。「子どもの命を守る」という共通の目標のもとにCDRの席に着けば、互いの職種や組織の垣根を超えて、子どもにとって最善なものが見えてくるからだ。

イメージ(撮影:穐吉洋子)

◆CDRはグリーフケアの側面があるべき

 虐待に限らず、不慮の死を防ぐには、保護者への支援が欠かせない。藤田さんは弁護士を志す以前から、子どもの養育環境に関心を持ち続けていた。司法修習生のときには、児童相談所職員の家庭訪問に同行。虐待の現場に初めて立ち、衝撃を受けたと振り返る。

 5階建ての団地。階段は薄暗く、エレベーターはない。トラック運転手の父親は不在が多く、母親は体調不良で外で働けない。家の中は、やたら壁がベトベトしていたことを覚えている。

 「子どもが4、5人いる家庭で。虐待事案だったので、どんな悪い奴が現れるんだろうと思って行ったら……」

 現れたのは、困りはて、途方にくれた母親だった。「やんなきゃいけないことが多いのに、できなくて……。もう、いっぱいいっぱいになって、(子どもを)叩いちゃうんです」。私はダメな親なんですと、小さくなってわびる母親に、「虐待はいけない」と正攻法で簡単に言える話ではないことを思い知ったという。

 「CDRは本来、グリーフケア(死別などによる深い悲しみや悲痛に対するケア)の側面があるべきだと言われています。自分の子どもが亡くなったのはどうしてか。そこを専門家に調べてもらって、『こういうことだったんだよ、あなたのせいじゃないんだよ』『これを気をつければよかったんだね』と言ってもらって、自分の子が亡くなったことについてもう一度見つめ直すためのきっかけになるのがいい。でも、そこは難しいところで、虐待をしていたら、グリーフケアもあったもんじゃない。死因を究明して、たとえ、加害者であったとしても、どういうふうにグリーフケアをしていくか考えなくてはいけないと思います」

(初出:東洋経済オンライン 2022年4月5日  『米国発「子どもの死の予防制度」日本導入への課題 虐待の防止にも効果、米国は1970年代に導入』 )

■関連記事
『子どもの死を防げるか 試される「ど真ん中政策」 こども家庭庁とCDR【1】』(フロントラインプレス 2022年4月13日)
『チャイルド・デス・レビュー 救えなかった小さな命』(フロントラインプレス 2021年10月15日)
『一人で抱え込まないで 「特定妊婦」支援で守る新しい命』(フロントラインプレス 2018年10月12日)

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穐吉洋子
 

カメラマン、ジャーナリスト。

大分県出身。 北海道新聞写真記者を経て、ウェブメディアを中心に記事、写真を発表している。

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