◆大学教授と弁護士グループ、安倍晋三氏らを対象に
安倍晋三元首相の「安倍晋三後援会」が主催した「桜を見る会前夜祭」をめぐって、新たな動きがあった。
前夜祭をめぐっては、夕食会の参加費を安倍氏側が補てんしたとして、安倍氏や秘書らが公選法違反(選挙区内での寄付)と政治資金規正法違反で刑事告発されていたが、安倍氏らは不起訴、秘書の1人(後援会代表)が100万円の罰金刑となった。一方、東京の弁護士グループや政治資金問題に詳しい大学教授は、これとは別の政治資金規正法違反で安倍氏らを刑事告発したが、これも不起訴に。そのため、今月、検察の処分は不当だとして、東京検察審査会に「起訴相当」議決を求めて審査を申し立てた。
申立は2つある。
1つは、安倍氏らを不起訴とした東京地検の不起訴処分を対象としたもの。もう1つは、前夜祭の収支を後援会の政治資金収支報告書に記載しなかったとして、政治資金規正法違反で罰金刑となった秘書(後援会代表)の“共犯者”が起訴猶予になったことについて、この「不起訴処分」を不当とする申し立てだ。後者については、神戸学院大学の上脇博之教授だけが申立人となった。
◆前夜祭費用の補てんは「前年からの繰越金」か「安倍氏個人の預金」か 大きな矛盾が残った
申し立てに至る経緯はどうだったか。整理しながら振り返っておこう。
「桜を見る会前夜祭」の問題が発覚した後、政治団体「安倍晋三後援会」は山口県選挙管理委員会に提出済みだった政治資金収支報告書(2017〜2019年分)の訂正を迫られた。なぜなら、報告書には前夜祭の収支に関する記載がなかったからだ。
訂正は2020年12月23日付。2017年分に241万円、2018年分に303万5000万円、2019年分に383万5000円がそれぞれ新たに「収入」として記載された。これらはいずれも、前夜祭の参加者から受け取ったとされる1人5000円の参加費の総額とされる。一方、会場だったホテルニューオータニへの「支出」に関しては、参加費総額に加え、安倍氏側が負担したという金額が新たに記載された。その金額は2017年が190万1056円、2018年が150万6365円、2019年が260万4908円となっている。
この訂正の翌日、東京地検は安倍氏らを嫌疑不十分で不起訴とした(後援会代表を務める秘書を罰金100万円の略式起訴)。
上脇教授の審査申立書によると、この訂正の際、安倍晋三後援会は収入の不足する分を補填するため報告書で「前年からの繰越額」を増額修正した。ところが、安倍氏自身は不起訴になった後の記者会見で「(補填の原資は)私の預金」と説明した。不足分の穴埋めは「前年からの繰越金」なのか、「私の預金」なのか。この2つの事実は明らかに矛盾する。
上脇教授は以下のように説明した。
「後援会は2016年末の時点で前年からの繰越額を601万円余り増額する訂正をしました(それ以前の報告書は法律上の保存期間を過ぎている)。2019年末まで3回開かれた前夜祭の宴会代金の不足合計額は、その増額分で1円狂わず支払ったことになっています。しかし、そのようなことは事前に誰にも予想できるはずがありません。また、安倍氏の預金から補填したという安倍氏自身の説明とも矛盾しています」
一連の会計処理は「『晋和会』の会計責任者抜きにはできない」と上脇教授は考えている。「晋和会」は安倍氏の資金管理団体であり、上脇教授はこの会計責任者も告発の対象に含めていた。そのため、東京検察審査会に対する今回の審査申し立てにおいても、この人物を被告発人に含め、「起訴相当」にすべきだとしている。
ホテルニューオータニは「前夜祭」費用に関する領収書を「晋和会」名義で発行したとされる。また、収支報告書の不記載で罰金刑となった秘書(後援会代表)の起訴状には「後援会」の「会計責任者の職務を補佐していた者」が共謀していたと記載されている。この「補佐をしていた者」が誰なのか、検察は氏名を公表していない。
上脇教授は言う。
「前夜祭の収支不記載について共犯者がいたことは広く知られていないでしょう。この事件は秘書(後援会代表)の単独犯ではなく、共犯者がいたと検察も認定していたわけです。つまり組織的犯罪だったことになります。そこで組織的犯罪の、たとえ一部であっても真相解明につながればと思い、審査申立てをしたのです」
■参考記事
『小さな違和感が端緒だった「桜を見る会」のスクープ』(調査報道アーカイブス No.30 2021年10月19日)
『赤旗はなぜ桜を見る会をスクープできたのか 見逃し続けた自戒を込めて、編集長に聞いてみた』(毎日新聞 2020年11月21日)
単行本『汚れた桜 「桜を見る会」疑惑に迫った49日』(毎日新聞「桜を見る会」取材班)