◆「生きた証しを伝承する活動」が持つ効果
関西学院大学「悲嘆と死別の研究センター」研究員、赤田ちづるさん(47)は、交通事故を含む犯罪被害者の遺族を対象にした研究を手掛けている。その中で、メッセージ展のような「死者の生きた証しを伝承する活動」には、遺族が生きる目的を探すプロセスおいて一定の効果があることがわかったという。活動に参加した遺族への調査では、「亡き人と一緒に生きていると感じるようになった」との回答が多かったという。
実は、赤田さんは、大分県に住む佐藤さんの長女だ。
「ミュージアムは、母の命をつなぎとめてくれたところ。感謝しかないです。ずっと体調の優れなかった母が今年、メッセンジャーを預かるようになると、別人のように元気になった。そういうのを見ると、(メッセンジャーは)すごい役割を持ってたんだと思いますね」
赤田さんは事故で弟を失った当時、すでに実家を離れて久しかったが、乳幼児2人を育てながら、両親に寄り添った。心身の不調を抱えながらも署名集めやメッセージ展に駆けつける母に何度も同行。自分の子どもたちが学齢期になると、グリーフケアを学ぼうと大学院の門をくぐった。
それは、犯罪被害者やその遺族を支援したいという理由からだけではない。「父と母と、私の悲しみでは何が違うんだろう」と、長い間繰り返してきた自問への答えを求めていた。
赤田さんは言う。
「弟を亡くしたあの日、私の中では、それまで知っていた父と母をも失ったんです。それがきょうだいを亡くすということです」
◆被害者との関係はさまざま
これまでミュージアムでは、「理不尽に奪われた命」を共通項として、親、パートナー、子、きょうだいと、それぞれ異なる立場の遺族がメッセンジャーを生み出してきた。被害者との関係はさまざまだ。
「私のようにミュージアムに感謝するきょうだいもいれば、署名活動やメッセージ展、裁判に母親を取られて寂しかったというきょうだいもいます。だけど、母親を悲しませるようなことは言わない。そこは同じだな、と」
きょうだいを亡くした時期にもよって、受け止め方が違う。6歳以下は、母親が祖父母や親戚の手を借りながら子どもの面倒をみており、放って置かれるケースはあまりない。自分のことが1人でできる中学生や高校生になると、働けなくなった親や亡くしたきょうだいの代わりを務めるなど担う。そして、突然の役割変化や居場所の喪失に苦しむことが多い。
赤田さんは2017年、メッセージ展に関わるきょうだいたちがつながる「栞の会」を立ち上げた。旅行などで親睦を深めながら、過去の出来事や吐き出せなかった思いを語り合う集まりだ。また、大阪市では、自死や病気できょうだいを亡くした遺族も含めた集まりを定期的に開いているという。
関西学院大学では2016年からメッセージ展を開催している。赤田さんは今年も実行委員の学生2人を引率して、東京都日野市のミュージアムを訪れた。学生がギャラリーを見学する間、赤田さんはアトリエで作業し、事務所で打ち合わせをして過ごした。
ミュージアムに来館しても、弟・隆陸さんのメッセンジャーのいるギャラリーには立ち寄らずに帰ることが多いという。
「私は、母のようにパネルの弟に向き合ったり語りかけたりはしないです。だって、ショックじゃないですか? 母の命をつなぎとめるのに、これ(メッセンジャー)に勝てないんですよ。1枚のパネルに」