◆収支報告書の訂正は“偽装工作”
自民党安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティーの収入からキックバック(裏金)を受けていた事件で、衆院・東京21区選出の小田原潔・外務副大臣、および安倍派の事務方トップだった松本淳一郎氏ら事務担当者を含む計6人と安倍派自体が7月29日、政治資金規正法違反(虚偽記載、不記載)の疑いで東京地検に刑事告発された。安倍派から小田原議員個人がキックバックを受け取っていたにもかかわらず、裏金事件の発覚を受けて小田原議員が代表を務める政党支部が受け取っていたと偽装工作をした疑い。
刑事告発をしたのは、神戸学院大学の上脇博之神戸学院大学教授。
小田原議員は2018年以降に安倍派の政治資金パーティーのパーティー券収入から総額1240万円のキックバックを受けていた。事件の発覚を受けて、小田原議員は自身が代表を務める政党支部「自由民主党東京都第21選挙区支部」の政治資金収支報告書を訂正した。ところが、その訂正に大きな疑念があるという。
◆収支報告書の訂正は「裏金は小田原議員個人への収入」を認める形
訂正前の収支報告書によると、小田原議員は2022年、個人として第21選挙区支部に1800万円の寄付をしていた。一方、小田原議員はこの年、安倍派から352万円のキックバックを受けていたが、その事実を記載していなかった。告発状によると、このキックバック分を収支報告書に「収入」として計上(訂正)した際、1800万円の寄付を352万円減額して1448万円に訂正した。つまり、安倍派から受け取っていた352万円は、実際は小田原議員個人が受け取っていたにもかかわらず、事件の発覚を受けて安倍派から直接、第21選挙区支部に寄付をしていたという形に訂正したということだ。
また、2020年と2021年にキックバックされた計492万円についても、2021年分の報告書で同じような訂正を実施。小田原議員から政党支部への寄付を減額し、安倍派から政党支部への直接の寄付だったと修正している。
つまり、いずれの訂正も、安倍派か受け取った資金の一部が、個人への収入だったことを認めたかたちになっている。
◆告発した上脇教授「裏金は個人の収入だったと“自白”している」
刑事告発した上脇教授は次のように説明する。
「小田原議員が行った2021年と2022年の収支報告書の訂正は、安倍派からのキックバックによる寄付を受け取ったのが政党支部ではなく、議員本人であったことを“自白”しています。政党以外の政治団体が議員個人に寄付することも規正法違反であり、それについても告発した。一方、派閥についても2019年以降、小田原議員個人への寄付を派閥の収支報告書に記載していなかった罪で告発しました。第21支部が20年~22年、安倍派からの寄付を受けていたと収支報告書を訂正したのは虚偽記入だとして告発しました」
2023年12月、宮澤博行・元衆院議員が防衛副大臣を辞職する際、「安倍派からのキックバックは政策活動費なので収支報告書に記載しなくてよいと安倍派から説明を受けていた」と記者会見で明かしている。また、自民党の調査結果でも「パーティー券のノルマ超過分は、政党支部を含む政治団体に対する寄付ではなく、収支報告書への記載義務がない議員本人に対する寄付だった」とする旨の記述がなされている。小田原議員の訂正は、これらと一致する。
安倍派から小田原議員本人への寄付は、事件の発覚以前、安倍派の収支報告書に記載されていなかった。これ自体が、政治資金規正法の不記載罪に当たるとして、安倍派の会計責任者だった松本淳一郎氏ら安倍派関係者も今回、刑事告発された。それだけでない。安倍派は塩谷立・衆院議員、下村博文・衆院議員、世耕弘成・参院議員、高木毅・衆院議員、西村康稔・衆院議員、松野博一・衆院議員の集団指導体制がとられており、彼らが小田原議員の違法寄付の隠蔽に関わっていたのではないかと告発状では指摘され、「氏名不詳者」も被告発人に加えられている。この点についても捜査により解明するようよう東京地検に求めている。
◆安倍派そのものも刑事告発
安倍派が議員個人にキックバックしていたケースは小田原議員だけではない。上脇教授は同様のケースも刑事告発をしてきた。
「同様の刑事告発は、すでに元検察官の郷原信郎弁護士と一緒に、丸川珠代、菅家一郎、簗和生の各議員について行ってきた。いずれも政治資金規正法違反です。真実を解明するためにも東京地検は捜査を尽くして刑事事件として立件してほしい」