「民主主義の風景 記者クラブの功罪」1面連載の試み

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「民主主義の風景 記者クラブの功罪」 四国新聞(2001年1月)

[ 調査報道アーカイブス No.24 ]

 権力不正を暴いていく「ザ・調査報道」ではないが、記者クラブ問題に正面から切り込んだ稀有な新聞連載として取り上げておきたい。

 報道批判の1つに「記者クラブ批判」がある。首相官邸や国会、中央省庁、警察、司法、経済団体、都道府県庁、各市役所……。各機関・団体ごとに置かれた任意団体ながら、事実上、新聞社・テレビ局・マスコミしか利用できない。他方、権力機構に対し、日常的かつ特権的にアクセスしていることから「報道利権」「閉鎖的」の象徴にされてきた。記者クラブは全国各地に網の目のように広がっており、その数、800前後と言われる。

 ここでは、弊害の詳細に言及しないが、自らの取材プロセスに直結する問題であることから、記者クラブ問題を大きく取り上げた新聞・テレビは過去も含めてほとんどないと思われる。

 香川県高松市に本社を置く四国新聞は2001年1月、年間キャンペーン「民主主義の風景」の第1部として「記者クラブの功罪」という連載を掲載した。全16回は全て1面という力の入れ方だった。事前の社告で「“役所情報の垂れ流し機関”“権力との癒着の温床”といわれる記者クラブの実態を開示し、国民の知る権利の代弁者といわれるメディアの在り方を検証する」とうたっている。

 連載各回のタイトルをいくつか並べてみよう。これらを眺めるだけでも、記者クラブ問題の根深さ、それに浸りきった報道のぬるさが透けて見える。どの記事も1500字余り。新聞の1面連載としては、かなりの大型だ。

「高い敷居 特権意識が見え隠れ」
「行政寄り 地元紙ゆえジレンマ」
「信頼度低下 現実見ぬ報道も一因」
「発表漬け 独自ダネ2割足らず」
「便宜供与 行政と報道 利害一致」
「依存症 “安全原稿”にあぐら」
「排他性 根強い『既得権』意識」
「価値判断 発表情報に流される」

 連載第8回には、高松市の経済記者クラブに頻繁に足を運ぶ四国電力広報課長のエピソードが出てくる。

 月によって多少異なるが、平均すれば週に二、三回程度、経済記者クラブへ足を運ぶ。売り込む資料には細心の注意を払う。
 「記者さんの目を引く資料づくりが、広報担当者の腕の見せどころなんですよ」
 広報課長が、その手の内を明かしてくれた。「文脈には5W1Hを」「何年ぶりとか、何回目など見出しになりやすい要素を入れる」「専門用語はなるべく分かりやすく解説」―。こう筋立てれば、記者が求める“完全原稿”が完成する。

「結局、依存しないように、と言われても出てきた資料に頼ってしまう。特に新人の場合は」。経済クラブの本紙キャップ・谷本昌憲は自戒を込めながら振り返った。
 現に、発表情報を記事化することが、記者の仕事だと錯覚していた新人もいた。
 ほとんど取材もせずに資料を写し始める。不明な点は質問はするが、電話一本。クラブから一歩も出ないで一日が終わる日もある。極端な話だが、「テニヲハ」さえ変えれば記事が成り立つことさえある。

 別の回には、こんな記述もある。

 記者クラブ発の記事の中で、発表物はどれくらいあるのか。
 昨年十二月一カ月間の本紙を調べた結果、主な記者クラブ(県政、経済、県警、高松市政)から出た記事のうち、発表ネタや行事物、お知らせなど記者クラブ情報の割合は、八二・五%。言い換えれば、記者クラブに依存しない独自ニュースは、二割にも満たないことを示している。
 開会中だった県議会や市議会の記事を除けば、その割合は九割近くにまではね上がる。
 読者には驚くべき数字かもしれないが、新聞関係者にとっては周知の事実。むしろ「もっと多いんじゃないの」という声もある。そして、この傾向はどの新聞社もほとんど変わらない。記者クラブが「発表ジャーナリズムの温床」「官庁情報の垂れ流し」と批判されるゆえんだ。

 四国新聞社は、自民党の国会議員で、労働大臣などを務めた平井卓二氏(故人)、同じくデジタル改革担当大臣の平井卓也氏らの「平井一族」をオーナーとしている。したがって、報道内容や論調も保守的と思われがちだが、あながち、そうとも言い切れない。少なくとも20年前には、どのメディアも成し得なかった「記者クラブ問題」をわが事として取り上げ、切り込んだ。記者クラブ批判が全国で盛り上がるのはその後、2010年を過ぎたあたりからだ。

 自らの取材拠点である香川県内の記者クラブの様子をルポしながら、自らの“暗部”に鋭く切り込む。当時はまだ社会に実態が知られていなかった記者クラブ問題を広く知らしめたという意味で、この連載は立派な調査報道だった。

 かつて、この連載は四国新聞のニュースサイトで全てを閲覧できた。現在は有料データベースで閲覧するなどの方法しかない。

■参考URL
四国新聞社

高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

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