地元で空を見上げ通信局記者が掴んだスクープ 「空自、イラクで武装米兵1万人超を空輸」

  1. 調査報道アーカイブス

中日新聞(2007年)

[ 調査報道アーカイブス No.53 ]

◆空自の輸送機が運んだ「武装米兵1万人」

 自衛隊のイラク派遣は、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」(イラク特措法)に基づき、2003〜2009年に行われていた。目的は、イラクの復興支援である。活動も「非戦闘地域」限定であるとされていた。しかし、それは本当なのか。日本政府の説明を根本から覆す記事が中日新聞に掲載されたのは、2007年7月23日朝刊1面である。

 「米兵中心 1万人空輸 逸脱…説明拒む政府」という大きな見出し。記事にはこうあった。

 航空自衛隊の輸送機が昨年7月31日、イラクのバグダッド空港に乗り入れて間もなく1年。輸送した多国籍軍兵士はほとんどが米兵で、6月までに1万人を突破していたことが、分かった。国連関係者の約10倍に上り「人道復興支援が中心」とする政府の説明と食い違う。派遣隊員らは「現実は米軍支援。それが日本防衛につながると信じ、命を懸けている。なぜ隠すのか」と説明責任を果たさない政府に不信感を抱く。

 愛知県の小牧基地からイラクに派遣されている輸送機C130は当時、クウェートを拠点とし、イラクの首都バグダッドや北部のアルビルなどに週4、5回運航していた。日本国内では、それらの飛行は「人道支援」と説明されていたが、実際は相当数の米兵を輸送していたという。北部アルビルまで飛ぶ週1便は国連用とされていたが、その便にも経由地のバグダッドで米兵が乗降していた。

 記事によると、貨物室が60人の米兵で“満席”になることもあり、取材に応じた空自隊員は「米兵のタクシー」になっていると語っている。「離陸前の待機中、機体のすぐ上を複数の迫撃砲弾が飛んだ」「飛行してきたばかりのルートを着陸直後、ミサイルが通過した」といった証言もあった。いずれも数分の差で被弾していた可能性が高い。

 空自は「国連関係者」を運んでおり、「人道的復興支援」に限っている─。そういった日本政府の説明に対し、ファクトをもって疑義を唱えた記事だった。

航空自衛隊の輸送機C-130(第1輸送航空隊=小牧=のHPから)

◆通信局記者の小さな疑問、大スクープへ

 この調査報道スクープはどうやって生まれたのか。取材の中心になったのは、空自・小牧基地を管轄する小牧通信局の木村靖記者。この通信局は1人勤務だった。

 かつて木村記者が筆者(高田)に語ったところによると、毎日、地元で基地周辺を歩いているとき、「小牧からイラクへ飛ぶ輸送機の本数が異常に多い」ということに気づいた。「なんか変だ、いったい何を運んでいるのか」と気になって仕方がない。木村記者は丹念に空自関係者を訪ね歩く。当時、イラクに派遣されている隊員は「10人に1人」とされていたという。その名簿を持っているわけではない。しかも、小牧通信局に着任するまで自衛隊の取材経験もない。それでも地元の人脈をたどり、イラクに派遣されていた隊員を探し当て、取材に協力してもらい、現地での壮絶な体験を次々と聞くことになる。

◆どうやって輸送米兵の数字を掴むか。通信局記者を防衛記者クラブへ

 カイロ特派員の経験があり、中東に詳しい秦融編集委員も取材に入った。秦氏が明かす。

 木村記者と話した際、「輸送機は何を運んでいるんだろうか。いろんなやばいものがある。もし、武器を運んでいたらだめだよね」と確認し合っていました。それと「アメリカ兵を運んでいたらダメだ」と。復興支援、人道支援という日本政府の枠組みから言うと、運んでいいのは、人道支援物資と外交官、国連や赤十字など国際機関の職員くらいだろう、と。
 しかし、国連職員や外国人が殺され、自爆テロが次々起きる。現に国連職員もイラクに入るのを止めているわけです。それなのに空自の輸送機は何本も何本も飛んでいる。そんな状況で、いったい、何を運ぶのか。そこに疑問があったわけです。アメリカ兵は人道復興支援もやっているけど、戦闘もやっているわけです。
 そうすると、問題点は、米兵のボリュームと武装しているかどうか。焦点は、そこになるんじゃないかな、と。要するに、米軍の戦闘行為に関わるような行為に自衛隊が巻き込まれていないかどうか、という話なのです。

 そうした中で木村記者が会った(空自の)Aさんは最初、「C−130の中は米兵だらけです」と言った。ほぼ毎便、米兵を詰め込んでいる、と。木村記者は「人道支援物資じゃないんですか?」って、驚いて聞き返したそうですが、Aさんは「そんなもんあるわけないでしょ」って。Aさんは「『人道支援』って言ってますよね? 僕らがやってるのは、戦争のお手伝いですよ」と言った。

 自衛隊を派遣する区域は「非戦闘地域」というのが、当時の日本政府、イラク特措法の枠組みですから、具体的に危険な状況が現地にあるかどうかが重要になる。Aさんは「そんなの(危機的な状況)いつもだよ。バグダッドを離陸するときも、着陸するときも、上空を飛んでいるときも、コックピットの中ではランプはしょっちゅうついて、警告音が鳴っているよ」と。(ミサイルなどの接近を)感知するランプがついて、擬装の「フレア」まき散らす。ランプがついて、警告音が鳴ってフレアをまき散らす、と。攻撃をかわしている状況が、離着陸の時とバグダッド上空に入った時に頻繁にある、と。だから、基本的に空自の輸送機は毎回狙われている状況があったって、そういうことなんですよね。その上で、Aさんは「米兵だらけだよ」と。「俺らはアメリカの足だよ」という言い方もしていました。

 機密に関する取材である。木村記者は、情報源との連絡方法も非常に気を遣った。通話記録の残る携帯電話は絶対に使わない。そうした取材を重ね、輸送している武装米兵の規模を確認していった。何百人単位どころではなく、どう計算しても数千人規模になる。

 「武装米兵を数千人規模ですよ。これはえらいことだっていう認識になりました」と秦氏。問題は「輸送した米兵の人数をどこまで具体的につかむか」に絞られた。どうやったら、人数を出せるか。中日新聞の取った策は、通信局勤務だった木村記者を防衛庁(現・防衛省)記者クラブに入れ、定期的に東京の本省などで取材させることだった。

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

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