◆隊員の声に耳を澄ます 「憲法違反だ、けしからん」という取材ではなかった
最終的には半年以上を費やし、自衛隊の中枢から数字の裏付けを取って記事にした。そしてこの記事の影響もあって、名古屋高裁で争われていた自衛隊派遣差し止め訴訟において、同高裁は2008年4月、自衛隊による武装米兵の空輸は憲法違反だ、という判決を下した。
秦氏によると、実は、現場の隊員には「自分たちが何をやっているか、国民に知ってほしい。報道してほしい」という強い気持ちが潜んでいたのだという。
現場は隠したかっがているのではなく、「知ってほしい」と。そこが大きなポイントです。派遣される個々の自衛隊員にすれば、全てが国民に隠された状況の中で命を張っている。そんな中で、もし何かあったときに、自分たちはどういう形で殉職するんだろう、と。そういうことを彼らは常に考えているんですね。
「人道支援をやっています」と言っても、実際に何をやっているか、国民は分かってない。何かあった時に、全てが明らかになった時に「自衛隊が暴走していた」みたいな話にもなりかねない。そういう状況なのに、自分たちの活動が、国民に支持をされていない、あるいは支持されているかどうかさえ分からない状況に置かれることへの居心地の悪さ、不安、懸念、不満。そういったものが間違いなく彼らにはあった。自衛隊の人たちは、常に死ぬ覚悟を持っているんですよ。
実際は戦闘があって、ものすごく危険な地域なのに、政治の都合で「非戦闘地域だ」「非戦闘地域だから安全」と言われてしまう。だから、この取材は「憲法違反だ、けしからん」とか、そういうことではありませんでした。
■参考URL
単行本『権力に迫る「調査報道」』 木村・秦両記者のインタビュー掲載
愛知県弁護士会「歴史的、イラク派兵差止訴訟・名古屋高裁違憲判決」
自衛隊のイラク米兵空輸に違憲判決 政府の「ウソ」から生まれた日米の軍事的一体化
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