路上生活者を集めて施設側が虐待・暴行 死者70人以上/戦後混乱期の「岡田更生館」事件を暴いた潜入取材

  1. 調査報道アーカイブス

毎日新聞(1949年)

[ 調査報道アーカイブス No.65 ]

◆日本初の本格的な“潜入取材”

 調査報道取材の一つに「潜入取材」がある。記者と名乗らず、ある組織や施設、現場などに入り込み、実態をつぶさに観察して報道する方法だ。最近では、フリージャーナリストの横田増生氏が『ユニクロ潜入一年』『潜入ルポamazon帝国』などを発表し、注目を浴びた。欧米でも時折、潜入の成果がマスメディアで報道されるが、日本の新聞・テレビでは「身分を偽るのはいかがなものか」という“お行儀の良さ”がネックとなり、ほとんどお目にかかることはない。

 戦後の混乱期、この潜入取材によって「岡田更生館事件」という、とんでもない大問題が明らかになったことがある。担ったのは、毎日新聞大阪本社社会部の記者たちだった。大手メディアによる本格的な潜入取材としては、初めてだったのではないかと思われる。

 岡山県の吉備郡岡田村(現在は倉敷市真備町)に1946年〜50年にかけて「岡田更生館」という県立の路上生活者収容施設があった。当時は敗戦直後の混乱期。外地からの引揚者や空襲で家を失った行き場のない人々が社会にあふれ、多数のホームレスとなってあちこちをさまよっていた。そんな人々を収容し、食事と寝床を与え、社会復帰させるための施設の一つが「岡田更生館」だった。

敗戦直後の岡山市(総務省のHPから)

◆脱走者の情報を聞き、「米国流の潜入取材」を思い立つ

 潜入取材を手掛けた大森実氏の著書『エンピツ一本』によると、ある日、デスクからこんなことを伝えられた。

 昨夜、面白い垂れこみがあったんだ。当直の北村君が面接したんだが、北川冬一郎と名乗る放浪詩人が、岡山県営の施設から脱走しての話だが、県営とは名ばかりで恐ろしい監獄部屋らしい。400人の浮浪者が収容されているようだが、毎日死者が出ているらしい。

 

 話を聞いた大森記者は、米国で記者が囚人に化けて刑務所に潜入し、看守の悪行を暴いた記事のことを思い出す。そしてすぐ、上司に同じ取材をやりましょうと持ちかけ、「こいつは潜入ものです」と言った。米国流の潜入取材をやろうというのである。

 ぼくが北川冬一郎のような浮浪者に化けて潜入するのが最も正確で、一番おもしろい記事になると思いますね。

 大森記者はまず北川に会い、詳しい話を改めて聞き出した。北川によると、被収容者の逃亡を防ぐため夜は真冬でも裸にされ、毛布一枚の雑魚寝。食事は粗末で、毎日何人も亡くなっている。被収容者の中に施設側に寝返った“自警団”が組織されており、逃亡しようとした者を殴り殺したり、リンチにかけているという。信ぴょう性に富む打ち明け話だった。

 大森記者は早速、小西健吉記者と一緒に現地に向かった。

 

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

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