「消えていた炎〜限界の山里で」 地方紙ルポの鋭さ

  1. 調査報道アーカイブス

「消えていた炎〜限界の山里で」高知新聞 2021年3月

 

[調査報道アーカイブス No.2 ]

 米ワシントン・ポスト紙は、「ウォーターゲート事件」をめぐる調査報道でニクソン大統領を辞任に追い込んだことがある。それほどまでに調査報道は、ときに凄まじい破壊力を発揮する。権力監視はジャーナリズムの本務であり、権力の不正・不作為を白日の下に晒す「権力監視型調査報道」の役割は極めて大きい。

 しかし、そうした「VS権力」型の報道だけが調査報道ではない。「何が調査報道か」の解釈はもっと幅広く行われてよい。社会の歪みを丹念に追いかけるルポも「隠れた・隠された世界」を明らかにするという意味に置いて、立派な調査報道だ。とくに地方紙には、時代を鋭く切り取る優れたルポがしばしば登場する。

 四国・高知県の地方紙「高知新聞」は2021年3月、「消えていた炎〜限界の山里で」という連載を掲載した。愛媛県との県境に近い、山深い仁淀川町。住民である高齢女性がその集落を車で通りかかった際、妙なことに気づいた。道沿いの家があるべき場所からなくなっていた。急ぎ車を走らせて知人の会社社長に知らせ、現場に戻った。すると、あったはずの家は焼け落ちていた。外壁も残っていない。黒焦げになった柱の根元だけが墓標のように並んでいる。火は裏手の山にも及んでいた。

 この家の主、87歳の男性が焼け跡から見つかった。火災が起きたのは、前日の夜と思われたが、詳しいことはわからない。消防も救急も来なかった。誰もこの火災に気付かなかったのだ。集落の住人は6人。住む家は集落内で離れ離れに点在している。もちろん、全員が高齢者だった。

 この出来事を高知新聞は連載の第1回で「孤独焼死」と名付けている。

 社会の歪みはしばしば、“周辺”で顕在化する。地理的な意味での地方はもちろん、都市圏であれば、マスメディアの目が届きにくい街の片隅や雑踏などで起きる。そして、そうした出来事は現代社会を象徴する言葉を生み出す。今では当たり前になった「買物難民」という言葉を最初の頃に流通させたのも、宮崎日日新聞や山形新聞といった地方紙だった。

 四国の山間で起きた「孤独焼死」というリアルも、それに通じるものを感じさせる。「少子高齢化」という定型化した言葉が示すものとは明らかに違う。「孤立死」「孤独死」という言葉で言い表せた実態をも遥かに超えている。火災が起き、人が亡くなったことすら、誰も気付かない社会の崩壊。近未来にはさらに増えそうな、恐ろしいまでの実態が「消えていた炎〜限界の山里で」には描かれているのだ。

 この連載「消えていた炎〜限界の山里で」は高知新聞の電子版で閲覧できる(会員登録必要)。各回のサブタイトルは以下の通り。

①「家がない」「熱もなかった」
②「山じゃ食えんなった」
③ 「支えたい人がおらん」
④ 「安気な家に帰りたい」

■参考URL
消えていた炎~限界の山里で~(1)「家がない」「熱もなかった」
高知新聞「消えていた炎~限界の山里で」(新聞協会報道)

高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

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