「Anatomy of a killing」デジタル技術で権力に迫る

  1. 調査報道アーカイブス

全く新しい「デジタルハンター」の世界 英BBC「Anatomy of a Killing」(2018年)

 

[ 調査報道アーカイブス No.11 ]

 SNSに投稿・拡散された数分間の動画には、どこかの荒れた土地が映っている。自動小銃を肩に下げた迷彩服の男たちが、女性2人と子ども2人を歩かせている。次の場面では、女性や子どもたちは、目隠しされ、頭からすっぽり黒い布を被せられた。そして銃殺――。無抵抗の人々は次々と野に斃れた。人々の肌は全員黒い。アフリカかどこかだと思われるが、画面を見ているだけでは全くわからない。いつ? どこで? その肝心の情報がわからないのだ。

 正体不明のこの動画を解析し、ついに撮影場所や日時を特定したのが、英BBCの「Anatomy of a Killing」(ある殺人事件の解剖、2018年)という報道だった。画像解析、位置情報分析などデジタル技術に秀でたメンバーが、誰でもアクセスできるオープンデータにアクセスし、これまでとは全く違う技術と発想による調査報道を可能にしたのだ。

 問題の動画について、スタッフはまず、背景に映った尾根の形や樹木、未舗装の道路といった情報に着目し、Google Earthの衛星画像との突合を進めていく。人や樹木の影の長さや角度から、撮影年月も割り出した。判明した撮影地はカメルーン北部、時期は2015年3〜4月。兵士の迷彩服や自動小銃の型式などから、男たちはカメルーン政府軍の兵士であると突き止めた。

 BBCの取材に対し、当初カメルーン政府は関与を否定していたが、やがて事実関係を認め、兵士7人を逮捕した。オープンソースを使い、調査のプロセスを明らかにしながら、技術に長けた協力者などを広く募り、事実を解明していく。全く新しい形の調査報道のパワーを存分に見せつけた。

 これまでの調査報道は、主として権力機構の関係者らを丹念に訪ね歩き、不正の存在を察知し、証言と資料を集めることで成り立っていた。あるいは、内部告発で得た端緒情報を元にして慎重に関係者への接触を続ける形で進んできた。そうした古典的な取材手法とデジタル技術を使った調査とは、全くフェーズが違う。

 オープンソースとデジタル技術を駆使する取材者は「デジタルハンター」などと呼ばれる。先駆者である調査集団「べリングキャット」は、ウクライナ上空で起きたマレーシア航空機撃墜事件(2014年7月、乗員乗客297人死亡)を徹底的に調べ、事件から5年後、撃墜の指示を出したロシア軍関係者らを特定して報道した。ロシア政府は否定したものの、ラップトップのパソコンだけで国家や権力の裏側に迫る手法は、調査報道の大きな潮流になっていくことは間違いない。

■参考URL
YouTube「Anatomy of a Killing – BBC News」
たった1本の「兵士による民間人虐殺動画」からBBCが犯行現場・時期・犯人を割り出した方法とは?(GIGAZINE)
41歳のゲーマー、部屋から一歩も出ずに権力者の不都合な真実を暴く(現代ビジネス)
SNS情報で国際的事件の謎を暴く「すご腕チーム」<ベリングキャットの衝撃(上) >(毎日新聞)
Bellingcat 公式HP

高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

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