10月末の総選挙後、第2次岸田内閣が発足した。新たに外務大臣として閣僚入りした林芳正氏(衆院・山口3区=参院から鞍替え)、および、自由民主党の幹事長に就任した茂木敏充氏(衆院・栃木5区)について、フロントラインプレスは2人が当選した際の選挙運動費用「余剰金」を改めてチェックした。するとー。
◆行方が分からない2013年参院選の余剰金
選挙運動の収支は、候補者が選挙後に各選管へ提出する「選挙運動費用収支報告書」で把握できる。そのうち、収入は通常、政治団体(政党支部)からの資金や業界団体などからの寄付が中心。支出は事務所費や演説会のための諸費用、ポスターやビラの印刷代などで構成されている。ただ、ポスターやビラなどは公費負担されているため、余剰金は「収入―(支出-公費負担)」で算出できる。
実は、公職選挙法にはこの「余剰金」の処理に関する規定がない。しかし、余剰金が出た場合、資金の繰り入れ元である政治団体(多くは政党支部)に返却するのが当然とされている。返却せずに政治活動に使用した場合は政治資金規正法違反(不記載)となり、私的に費消したした場合は課税対象となる。何より、選挙費用には公費負担なども流れ込んでいるため、余剰金は公的性格も帯びている。
こうした観点から林、茂木両氏の「余剰金」をチェックすると、どんな姿が見えるのか。
調査は、公開資料で正確な余剰金の額が把握可能な2009年以降の選挙を対象とした。今回の総選挙で衆院議員に鞍替えした林氏の場合、調査の対象は2013年と19年の参院選である。
林氏の選挙運動費用収支報告書(要旨)によると、13年の選挙で当選した際、2700万円の収入に対して支出は2359万0178円で、公費負担は252万6272円だった。したがって、余剰金は「593万6094円」に上った。ところが、自由民主党山口県参議院選挙区第二支部(代表・林氏)などの報告書を見ても、余剰金の返還を受け入れたとの記載はない。593万6094円はどこに行ったのか。
フロントラインプレスは2019年6月、国会議員全員の「余剰金」についてその使途を調査し、林氏に対しても余剰金の行方を尋ねている。林事務所は「ご質問の選挙運動費用の残金については、法令に従い適正に処理しているところです。法令上特段の報告義務もないと承知しております」という回答だけを寄越し、それ以上は何も言及しなかった。
公選法には余剰金の処理に関する規定がないから、「法令に従い適正に処理」が何を指すのかは判然としない。結局、593万6094円の余剰金がどう使われたか、有権者にはわからずじまいだった。
ところが、2019年7月に実施された参院選では、様相が一変する。この選挙で林氏は「128万8685円」の余剰金を出したが、関連資料をチェックすると、自由民主党山口県参議院選挙区第二支部に同年のうちに、1円単位までぴったりと合う128万8685円を戻し入れていた。項目は「その他の収入」、内容は「選挙資金の返納」である。取材を受ける前と後では、余剰金の扱いに大きな差があったわけだ。やはり、後ろめたいことがあったのだろうか。
◆茂木幹事長の余剰金処理は「絶妙」
幹事長になった茂木氏はどうか。同じ方法で調べたところ、茂木氏の衆院選での余剰金は以下の通りだった。
2009年 6万2617円
2012年 3万4507円
2014年 1万7973円
2017年 1万 138円
2006年を除けばいずれも5万円未満の金額しか余らせていなかった。各選挙の際の収入は約1550万~1680万円とばらつきはある一方、支出もそれに合わせて増減しており、余剰金は「誤差」程度の額となっている。
全国会議員の余剰金を調査した際、フロントラインプレスは5万円未満の余剰金については「選挙費用に算入できない選挙後の残務整理のための支出などに充てられた可能性もある」として質問状による調査の対象外としていた。茂木氏は過去4回のいずれの選挙でも余剰金を自由民主党栃木県第五選挙区支部(代表・茂木氏)などに戻していない。そうであっても、不自然な余剰金「0円」ではなく、14年、17年選挙のように1万円少々の余剰金しか出さない茂木氏の資金管理は「絶妙」というしかない。