◆「原子力緊急事態宣言」下、溶け落ちた核燃料の取り出しへ
東京電力福島第一原発の事故により、同原発周辺に「原子力緊急事態宣言」が発出されてから間もなく12年になる。新型コロナウィルスの緊急事態宣言が過去4回にわたって発出された際は、2つの緊急事態宣言が発令中という異常な状態になった。コロナの影に隠れて、福島原発関連の報道は量も減り扱いも小さくなってきたが、依然として重要なニュースが続いている。
1月31日には、第一原発2号機の溶融核燃料(デブリ)の取り出しに使う遠隔操作機器「ロボットアーム」が、現地・楢葉町の楢葉遠隔技術開発センター(モックアップ施設)に運び込まれた。デブリの取り出し作業は、2022年中に着手される。福島テレビの報道によると、担当技師は「実際の福島第一原子力発電所の実基を模擬した設備が置かれておりますので、そちらを用いてより実践的な検証作業を行っていく予定としております」と語ったという。
溶け落ちた核燃料を取り出せないという深刻な事態が続くなか、現地では立ち入り規制が次第に緩和され、1月26日には富岡町の帰還困難区域の一部で立ち入りが可能になった。このエリアには、桜並木で有名な「夜の森地区」が含まれている。
◆双葉町では今年秋、公営住宅への入居始まる
一方、双葉町では今年10月に公営住宅への入居が始まる。デブリ取り出し作業の着手に合わせて人を呼び戻していくことになる。福島民友新聞の記事『双葉の公営住宅、10月入居開始 駅西側に整備、診療所も開設へ』(2月1日公開)によると、復興庁や町などが昨年行った調査では、帰還について「まだ判断がつかない」「戻らないと決めている」と答えた町民は計約85%だった。
また、双葉町の伊沢史朗町長は、福島民友新聞社の取材に「最先端のまちづくりで『戻ってきたい』と思ってもらえることが大切。さまざまな人のアイデアを基に、新しい双葉をつくり上げていきたい」と語ったという。
◆「今後の事故では被ばく線量を公表しない」東電方針
「非公表」「隠す」という事態も続いている。テレビ朝日の報道によると、東京電力は1月24日の会見で、今後東電の原子力関連施設で被ばく事故が起きた際は、どの程度の被ばくだったかを示す放射線量を公表しない方針を示した。
会見では「被ばく線量の公表は個人の特定につながる恐れがあり、プライバシー保護の観点から公表しないことが望ましい」という見解を法務部門がまとめたという。
◆「原発事故で甲状腺がんに」6人が東電相手に賠償請求
一方、福島第一原発事故の影響で甲状腺がんが発症したとして、事故当時6〜16歳だった6人が1月27日、東京電力を相手に訴訟を起こした。損害賠償の請求額は計6億1600万円。6人はいずれも手術を受け、甲状腺の全部または一部を摘出したという。
各メディアの報道によると、原告の20代女性は東京都内で会見し、「(原発事故によるがん患者だという理由で)差別を受けるのではないかと恐れ、誰にも言えず10年間を過ごしてきた。この状況を変えたい」と語った。
福島第一原発の事故に伴う原子力緊急事態宣言は、現在も解除の見通しが立っていない。
■参考
『「ロボットアーム」が楢葉町の施設に到着 燃料デブリの取り出しに使用』(福島テレビ、2022年1月31日)
『双葉の公営住宅、10月入居開始 駅西側に整備、診療所も開設へ』(福島民友新聞 2022年2月1日)
『原発事故の被ばく線量 非公開を示唆 東京電力』(テレビ朝日 2022年1月24日)
『福島原発事故の30年前に暴かれていた原発下請け労働の実態 「原発のある風景」が伝えたもの』(フロントラインプレス 調査報道アーカイブス No.54)
『現場作業員たちが語り続ける原発事故の“真実” イチエフの全てはここに詰まっている』(フロントラインプレス 調査報道アーカイブス No.84)