「在宅被災者」対策手つかず 首都直下地震で14万人超の試算(2018・1・9 Yahoo!ニュース特集)
日本列島は今も、毎日のようにどこかで大地が揺れている。起きてほしくはないが、例えば、東京都の推計によると、首都直下地震が起きた場合、最大で死者9000人超、全壊・焼失約30万棟、避難者数339万人の被害が出るという。さらに今、こうした想定に含まれていない問題が浮上している。壊れた自宅で生活せざるを得ない「在宅被災者」の存在だ。研究者の試算によると、その数は都内9区だけで約14万5000人に達するという。これに対し、政府や東京都の対策は手つかずで、数の想定もできていない。東日本大震災の実例もたどりながら、この問題に迫った。
◆壊れた家に住み続ける「在宅被災者」
万が一、大きな地震が起きたら、みなさんはどこに避難するだろうか。多くの人はまず、避難所を目指すだろう。一方、自宅は全半壊していても、何らかの理由で自宅生活を続ける人たちも出る。「避難所は満杯で入る余地がなかった」「要介護者や乳幼児がいて避難所での生活は困難」といった状況はあちこちで生じる可能性があるからだ。自宅に戻っても、上下水道や電気の復旧や家屋の修繕が遅れると、長期にわたって不便な生活を強いられる。
こうした人たちを「在宅被災者」と呼ぶ。
この言葉がメディアに登場するようになったのは、東日本大震災の3〜4年後からだ。その後の熊本地震などでも顕在化した。
では、首都直下地震が起きたら、在宅被災者はどの程度発生するだろうか。どんな境遇が待ち受けているだろうか。
実は、東京都は家庭向けハンドブック「東京防災」の中で、地震が起きた後も自宅に住めるようであれば、そのまま家にいるよう勧めている。避難所までの移動が厳しかったり、避難所での生活環境が良くなかったりするためだ。
ところが、である。
行政の勧め通りに「在宅」を選んでも、それが長期化した場合、行政がどう対応するのかについては、具体的な対策がない。東京都の内部の行政対応マニュアルも現在、その点に言及していない。また、制度上は、大規模半壊以上にならなければ仮設住宅に入ることはできないし、仮設住宅の提供が遅れると、「在宅」の住民は結局、全壊状態の家でも住み続けるしかない。
◆室内に雑草も 東日本大震災の「在宅被災者」
では、東日本大震災の在宅被災者はどんな状況に置かれているのだろうか。
宮城県石巻市のボランティア団体「チーム王冠」の代表・伊藤健哉さん(51)の案内で現地を回った。この団体は石巻市を中心に被災者支援を続けており、被災者の生活再建の相談に乗ったり、家屋の補修を手伝ったりしている。
伊藤さんは「家を外から見ても分からないんですよ。(住人は)恥ずかしがって、なかなか中に入れてくれないから、状況の把握が容易じゃない」と言う。
震災から7年が経つのに、いまだに家の中は震災当時の状況のままの人がいる。壊れたままの床や天井、壁…。それらを人に見られることを恥じ、自分から状況を言い出せない、というのだ。
石巻市の杉山栄(さこう)さん(77)の自宅は、津波で鴨居の上まで浸水し、土壁は抜け落ちた。自治体の判定では、居住機能の喪失を示す「全壊」。それでも杉山さんは被災後、一度も避難所に入っていない。高齢の身に慣れぬ避難所暮らしはきつい。「住んでいる家を離れたくなかったんです」と言う。
「全壊」した自宅のうち、かろうじて寝食ができるのは2階の一部分だけだった。かつては大工だった杉山さん。損壊部分は自力で少しずつ直したものの、土壁は修繕ができず、ブルーシートで覆っただけだった。電気、ガス、水道は復旧せず、水や食べ物は当初、配給先まで取りに通ったという。もちろん、暖房もなかった。
そんな杉山さんをチーム王冠のメンバーが“発見”したのは、2011年12月頃のことだ。
ボランティアたちは早速、修理に取り掛かった。壁が抜け落ちた箇所には樹脂製ストローボードを張り、雨風をしのげるようにした。震災から9カ月を経ての「応急措置」である。ただ、修繕費用がネックになり、それ以上の修理は進んでいない。
いま、外見は普通の民家に見えても、小部屋の床は抜けたままで雑草が生い茂っている。
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首都圏直下型地震が発生したとき、「在宅被災者」はどうなるのか。それに焦点を当てたのが「『在宅被災者』対策手つかず 首都直下地震で14万人超の試算」です。2018年1月にジャーナリストの木野龍逸さんが、Yahoo!ニュースオリジナル特集で公開しました。ここの引用したのは、その冒頭部分です。
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「在宅被災者」対策手つかず 首都直下地震で14万人超の試算
フロントラインプレスのメンバー・木野さんは東京電力福島第一原発の事故後、東電の記者会見に出席を続け、詳細な記録を「検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか」(岩波書店、1〜3巻)として出版。原発や震災をテーマに粘り強い取材を続けています。