「彼女は、チェ・ゲバラよりすごい」――コスタリカの法律を変えた車いすの女性と日本人

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「彼女は、チェ・ゲバラよりすごい」――コスタリカの法律を変えた車いすの女性と日本人 (2019・10・29 Yahoo!ニュース特集)

 これは、海を越えて一国の法制度を変えた人たちの物語である。3年前、中米コスタリカにできた「障がい者自立促進法(自立法)」。制定を主導したのは、車いすを手放せないウェンディ・バランテスさん(45)たちだ。そして、ひょんなことからコスタリカに関わるようになった日本人の障がい当事者や支援者たちが後押しした。「障がい者は家族と暮らすのが一番安全」と考えていたウェンディさんは10年前に来日した際、同じ筋ジストロフィーの患者らが家を出て、一人で暮らしているのを見て、衝撃を受けたのだという。

撮影:柴田大輔

◆日本で見た障がい者の「自立生活」

 障がい者の自立生活を支援する自立生活センター「NPO法人メインストリーム協会」は、兵庫県西宮市にある。JR西宮駅から歩いて3分ほど。クリーム色の3階建ての建物では、自立を目指す障がい者も職員として働く。
藤原勝也さん(39)はこのNPO法人で副代表を務める。筋ジストロフィー患者で、体を思うように動かせない。それでも自宅で一人暮らしを続けながら、職場であるこのNPO法人に通っている。

メインストリーム協会の事務所

職場から帰宅する藤原勝也さん

 ウェンディさんがこの施設にやってきたのは2009年5月だった。中米諸国の障がい者に「自立」を学んでもらうプログラム。JICA(国際協力機構)の支援を受けた1カ月半の研修には、毎年1、2人ずつが各国からやってきた。
藤原さんは「ラテンアメリカの人は声も大きく、明るくてにぎやか。でも、ウェンディはおとなしかったなあ。人前で話すこともほとんどなくて」と振り返る。

 彼女は最初の1カ月、一人で自立生活をしている障がい当事者らの自宅にホームステイした。その後は当事者団体の運営方法を身に付けたり、理念を学んだりした。すべては「自立生活」を実現させるためである。
ウェンディさんは来日するまで、親と離れて暮らすことなど考えもしなかったという。筋ジストロフィーの発症は2歳半のとき。徐々に筋力は低下し、ほどなく車いす生活になった。当然、介助者の手助けが要る。彼女の場合、それは両親だった。

ウェンディ・バランテスさん。コスタリカで

 ウェンディさんは言う。
「コスタリカでは、障がいのある人は、家族と一緒の暮らしが当たり前だったんです。一人ではできないことが多いから。私は大学で勉強して、医師になりたかった。大学は遠いのに、父と母は私の介助のために家を離れることはできなかったんです。介助者を雇う余裕もなかった。大学は諦めました」
そんな境遇で育った彼女が、西宮で驚いたのだという。介助の必要な、自分と同じ筋ジストロフィーの当事者が家を出て、一人で暮らしていたからだ。例えば、トイレに行きたいとき、介助者の親が他のことをしていたら、それが終わるのを待たなければならない。
藤原さんらの「自立生活」には自由がある。好きなものを自分が欲しいときに買いに行くこともできる。それを目の当たりにしたのだ。

ウェンディさん(右から2人目)一家。高校卒業のとき

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柴田大輔
 

フォトジャーナリスト。

1980年、茨城県生まれ。写真専門学校を卒業後、フリーランスとして活動。ラテンアメリカ13カ国を旅して多様な風土と人の暮らしに強く惹かれる。2006年からコロンビア取材を始め、生活を共にしながら住民の側から見た紛争、難民、先住民族、麻薬問題を取材。その他...

 
 
   
 

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