どこが音を上げるか我慢比べ “下請けいじめ”に苦しむ中小企業の実態

  1. オリジナル記事

◆1人1時間で1000個のナット溶接「不可能だよ」

 群馬県内で、別の二次下請け企業にも足を運んだ。この部品加工会社の経営者も、同じメーカーの「新ガイドライン」に弱りきっていた。
「例えば、ナットの溶接では、1本当たり4円だった単価が3円になったんだ。たまらないよ。ナット溶接の場合、従業員には1時間当たり3000円分働いてもらわないと経営は成り立たない。4円なら(1時間の溶接数は)750個が採算ライン。新ガイドラインでは、それが約1000個になる。1人が1時間に1000個。そんな作業は不可能だから、結局、赤字です」
この経営者もマイナスの影響を恐れての匿名取材である。取材が進むうち、「ほかにも苦しんでいることがある」という話になった。親事業者を経て一次下請けから押し付けられる「金型」の保管や管理だ。
金型とは、金属製や樹脂製の部品をプレス加工によって製造するための型をいう。一般に下請け業者は、親事業者から金型を借りて部品をつくる。製品の量産期が終わったり、モデルチェンジしたりすると、その金型は不要になる。ところが、不要になった金型を親事業者はなかなか引き取らない。廃棄もさせない。結局、立場の弱い下請け業者は何年もの間、無償で保管せざるを得なくなってしまう。

 親事業者と下請けの悪しき慣習。これは日本のあちこちに残っている。
この経営者も取材で怒りをぶちまけた。
「うちが保管している金型の中で最も古いのは30年前ですよ。あまりに量が多いから、金型保管のために月30万円ほどで土地を借りてます。大型部品を製造している知り合いの下請け業者の場合は、金型も大きいから、結構な大きさの倉庫を借りている。かなりの出費でしょう」
使用しないことが明白な、古い金型。メーカーや一次下請けに対し、引き取りや廃棄を要請できないのか。
「一次下請けに『廃棄してくれ』と頼んでも、その上にいるメーカーは『もしものために』と言って突っぱねる。メーカーにそう言われたら、こちらは先々の取引のことを考えて受け入れるしかありません」

 下請け2社のこうした訴えについて、メーカーに直接取材したところ、部品単価の一律カットについては「より競争力のある原価構造の実現を目指したもの」「お取引先さまの納得、合意がなければスタートしない仕組み」と言い、金型保管については「政府、業界の諸制度にのっとり、お取引先さまと合意、協力の上で金型管理の合理化を進めています」との回答があった。

◆「支払いの遅れ」「買いたたき」「減額」……

 “下請けいじめ”の広がりは、数字が物語っている。
公取委によると、2013年度に4949件だった下請法違反の「指導」は、年ごとにワーストを更新し続けてきた。17年度は前年度比450件増の6752件。その内訳は「支払いの遅れ」が54%で最も多く、「買いたたき」の20%、「減額」の11%と続く。

中小企業庁は「下請けGメン」をつくり、不当な取引に目を光らせているが……(撮影:本間誠也)

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 この記事は「どこが音を上げるか我慢比べ “下請けいじめ”に苦しむ中小企業の実態」の冒頭部分です。記事は2018年12月4日、Yahoo!ニュースオリジナル特集で公開されました。
取材を担当したのは、フロントラインプレスのメンバーである本間誠也さん。内部告発を端緒にした調査報道を手掛けるほか、「労働問題」にも強い関心を持ち、取材を続けています。
この記事が公開されてから3年ほどが過ぎていますが、「下請けいじめ」の実態に大きな変化は見られません。

  下記のリンクにアクセスすれば、Yahoo!ニュースオリジナル特集のサイトで全文を読むことができます。Yahoo!へのログインが必要な場合もあります。なお、写真の配置などが異なっていることがあります。
どこが音を上げるか我慢比べ “下請けいじめ”に苦しむ中小企業の実態

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本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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