水中に眠る船、都市、集落――人類の営みをたどる「水中考古学」の世界

  1. オリジナル記事

 沈没船はどうやって見つけるのか。

 75歳の井上さんは今も潜水調査を続けている場所は千葉県勝浦市の川津沖。江戸時代に来航した「ハーマン号」が対象である。船はいくつもの偶然が重なって発見されたという。

 井上さんが振り返る。

 「『ヘイ、タカ!日本に蒸気船が沈んでいるよ』と米国留学中にルームメイトから言われたんです」

 彼が読んでいた書籍「米国の蒸気船」には、幕末から明治維新にかけて日本近海で活躍した蒸気船「ハーマン号」のことが記されていた。1869年に横浜を出港後、暗礁に乗り上げ沈没したという。詳しい場所は触れられていない。
 その先を井上さんは自分で調べた。
 遭難当時の米紙「ニューヨーク・タイムズ」を見ると、沈没場所は横浜港から75マイル(約140キロ)離れた「Kawatzu」だと書いてある。日本語では「カワツ」または「カワヅ」だ。伊豆半島の静岡県伊豆市の「河津」では距離が遠すぎる。頭を抱えているとき、船会社に勤める弟から、千葉県勝浦市にも発音の同じ地名「川津(カワヅ)」があると教えてもらった。

 井上さんは勝浦市の図書館に足を運ぶ。

 「司書の方に、明治の初めころに沈んだ難破船を調べていると伝えると、『この近くに川津という漁港があり、昔、その近くでアメリカ船が沈んだというウワサを聞いたことがある』と返ってきて……。すぐに漁協に話を聞きに行ったんです。こういう情報は地元漁師が一番詳しい」

 60代の海士(あま)頭に会った。赤銅色に日焼けしているのは、付近の海にいつも潜り、誰よりも海の底を知っている証だ。海士頭は、節くれだった指で漁場の絵図面を指しながら、こう言ったという。
 「海底に、太い鉄の棒のようなものが何本も突き出ている箇所がある。漁の邪魔なんだ」
 その瞬間、井上さんはハーマン号に違いないと確信した。

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 この記事は<水中に眠る船、都市、集落――人類の営みをたどる「水中考古学」の世界>の一部です。018年11月9日、Yahoo!ニュースオリジナル特集で公開されました。取材・執筆は、フロントラインプレスのメンバーでジャーナリストの 伊澤理江さんです。
 記事ではこのあと、都市がまるごと沈んでいる海外の水中遺跡、水の底に集落が見えるとされる琵琶湖などが紹介されていきます。実は、高知県沿岸などでは、「海の底に道がある」といった伝承が多数残っています。どのような地殻変動で人々の営みが遺跡になったのか。それを知ることは、現代の防災を考えるうえでも役立つと研究者は言います。また、国際政治の世界では、水中遺跡を調べることで、自らの文化圏の広がりを各国に認めさせ、資源争奪戦を有利に運ぼうとする狙いもあるとされています。

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水中に眠る船、都市、集落――人類の営みをたどる「水中考古学」の世界
海底に沈んだ「ポートロイヤル」。水深4メートルほどの地点に「街」がある=カリブ海ジャマイカ沖(撮影・提供:井上たかひこさん)

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伊澤理江
 

ジャーナリスト。

英国ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 新聞社・外資系PR会社などを経て、現在はネットメディア、新聞、ラジオ等で取材・執筆活動を行っている。フロントラインプレスが制作協力したTokyo FMの「TOKYO SLOW NEWS」の...

 
 
   
 

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