読み手に自問させる調査報道の力 長崎新聞「居場所を探して 累犯障害者たち」

  1. 調査報道アーカイブス

「居場所を探して 累犯障害者たち」(2011年〜)

 

[ 調査報道アーカイブス No.14 ]

 「累犯障害者」と呼ばれる人たちがいる。知的・精神障害があるのに、福祉の支援を受けられず、結果的に犯罪を繰り返す人たちのことだ。長崎新聞が2011年7月から翌年にかけて手掛けた長期連載「居場所を探して」は、この累犯障害者の実態に迫っている。連載は計7部、62回に及んだ。

 連載に登場する当時30代だった男性を例に挙げる。

 男性は2010年、長崎県諫早市で総菜や食料品(計899円)を万引きしたところをスーパーの従業員に見つかり、交番に引き渡される。過去7回捕まったうち5回は、警察が説諭して帰す微罪処分だったが、この時は執行猶予中の再犯だった。警察は男性に障害があるとは思わず、窃盗容疑の書類を検察に送った。

 しかし、国選弁護人が、福祉サービスを必要とする刑務所退所者の支援団体に相談を持ち掛けると、男性に社会性やコミュニケーション能力が低いとされる「広汎性発達障害」があることが判明する。累犯障害者を支援する社会福祉法人や弁護士が、刑務所ではなく福祉施設での更生を訴えた結果、控訴審で執行猶予付きの判決を勝ち取る。執行猶予中の判決で再び猶予が付くのは異例だ。

 警察は取り調べの段階で、障害に気づけなかったのか。

 取材班が訪ねた当時の捜査幹部は「(男性のことは)記憶にない。障害の有無を警察が判断するのは難しい」と答える。長崎県警だけで年間2千人の窃盗犯を捕まえており、そのうち万引きが6割。警察から見れば、男性のケースはいちいち記憶しているほどの事件ではなかった。

 検察はどうか。検事出身の弁護士は、軽微な犯罪の処理では起訴から求刑まで「定型化された事件もある」と取材班に明らかにする。膨大な数の刑事事件に対処するシステムの中で、見た目では分かりにくい障害者が福祉につながらず、機械的に刑務所に送られている実態が浮かび上がる。

 毎年、全国で新しく刑務所に入る受刑者の4分の1は知的障害の可能性があると言われている。累犯障害者の問題は裾野が広い。実際にメディアも現在、この問題の報道を続けている。長崎新聞のこの連載は、権力の不正を暴くパターンではないが、足元から全国に広がる社会問題の鉱脈を掘り進んでおり、特に地方紙記者にとって見本となる「調査報道」と言えるだろう。

 異例の執行猶予判決を受けた男性の記事については、同じ障害がある読者からメールが寄せられたという。メールは連載に対して「発達障害は善悪の区別がつかないから、悪いことをしても許されるという間違ったメッセージを社会に発している。男性には『普通の人』として罪をつぐなってほしかった。発達障害を抱えながら、歯を食いしばって社会で生きている当事者に失礼だ」と強く批判していた。批判に対する回答は連載では示されていない。そのこと自体が、累犯障害者の問題が簡単には終わらないことを物語っているようだ。

 少なくとも「累犯障害者は福祉につながれば解決」という考え方には落とし穴がある。では、他にいったいどんな道筋があるのか。読み手にそう問い始めさせる力も、この「調査報道」は兼ね備えている。

 「居場所を探して」は2012年度の日本新聞協会賞を受賞した。

■参考URL
単行本「居場所を探して 累犯障害者たち」

高宗亮輔
 

熊本日日新聞記者。

地方政治や行政を取材している。

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