「社」の壁を超えた先駆的なキャンペーン報道 神奈川新聞+長崎新聞+沖縄タイムス(2010年)
[ 調査報道アーカイブス No.9 ]
在日米軍基地の問題といえば、ほとんどの人は「沖縄の問題」と考えてしまう。しかし、当たり前のことだが、米軍基地は日本の至る所にある。それぞれの基地の街では、何が起きているのか。地域の足元から基地を見れば、何が浮き彫りになるのか。神奈川新聞と長崎新聞、沖縄タイムスという3つの地方紙は2010年、合同取材班をつくってこの問題をキャンペーン型の調査報道として世に送り出した。「新聞社」という企業の枠を超えて連携し、1つのテーマに合同で取り組む――。最近では「新聞社の連携」も少しずつ進んできたが、10年以上前の3紙による試みは、その先陣的役割も担っていた。
「安保改定50年 米軍基地の現場から」。こう題する3紙のキャンペーン報道は、日米安全保障条約が現行のものに改定されてから50年になるのを機に始まった。連載は2010年1月から6月まで。その間に随時、特集なども組み、横須賀や座間(神奈川県)、佐世保(長崎県)、そして沖縄の様子を伝えていく。それぞれの地域でどんな事態が進んでいるのかについて、十二分なエピソードも盛り込んだ。基地に依存する地域経済、基地関連施設での治外法権、地域で進む米軍への協力態勢……。
米軍基地は全国各地にある。三沢基地(青森県)、横田基地(東京都)、岩国基地(山口県)などが特に知られている。しかし、沖縄の米軍基地問題は全国ニュースとなって報道されるケースも多い半面、本土側のケースはなかなか全国区にならない。その大きな要因の1つは、全国メディアはそれをローカルニュースの枠内で済ませ、地元メディアは全国区のニュースとして報じる術や発想を欠いていたからだと思われる。
後に、沖縄タイムスの論説委員長だった長元朝浩氏はこの2年後、3紙連携に関して次のように記している。
「米軍基地のある各地域を結んで安保を検証することは、日本中に 取材網を持つ全国紙にも可能な仕事だと思います。でも、あちこちの『地元の視点』の相互乗り入れ、地方文化の混じり合いは全国紙にはできません」(月刊「Journalism」2013年2月号)
基地問題は沖縄だけでない。その当たり前の事実を“全国の地方紙の視点”で複合的に報じたことにも、大きな意味があった。
このキャンペーン報道は、第16回平和・協同ジャーナリズム基金賞大賞を受賞した。後に書籍としても刊行されている。報道当時とは基地や周辺の姿も変わっただろうと思われるが、米軍基地を抱える歪みは今も変わっていない。
■参考URL
・単行本「米軍基地の現場から」
・普天間問題の打開策を探るメディアの役割とメディアへの期待―「Journalism」2月号より―(論座)