法廷で明らかとなった法違反の数々 神奈川県職員パワハラ過労自殺訴訟 和解は成立しても……

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◆“見せかけの残業時間”の裏で

 このケースで問われたものは、いったい何か。過労死問題に詳しい日本労働弁護団の笠置裕亮弁護士(神奈川県)にインタビューした。

 ――県職員の今回のケースでは、産業医に面談相手の正しい残業時間が伝わっていませんでした。これをどう捉えたらいいのでしょうか。

 「産業医が職責を果たすために事業者がきちんとした労働者のデータを提供するよう、労働安全衛生法は義務付けています。(神奈川県庁のように)過小な残業時間を知らせたら法律違反です。しかし、違反に対する罰則はありませんから、正確な労働時間を把握することすらしない事業者が多いのが現状です。法律に触れない範囲の、見せかけの残業データを提供していれば、それでいいと思っている。そんな状態では産業医から適切なアドバイスは期待できません」

笠置裕亮弁護士

 ――“見せかけの残業データ”の裏で、実際はどんなことが起きているのでしょうか。

 「会社や役所側が遺族に示す残業記録が実際の労働時間を本当に反映しているかと問われれば、全体の95%は反映されていない。過労死の事案を担当している弁護士の実感として、そう思わざるを得ません。(2019年の改正労働基準法の施行によって)民間や公務職場で月80時間という残業の上限規制が導入されたことから、どんなに忙しい職場でも残業は79時間とか、77時間とかにとどめておこうとしている。労基署の指導を逃れるため、データの隠ぺい件数はこれまで以上に増えている気がします」

 ――事業者は何をすべきでしょうか。

 「過労死を防ぐためにも、産業医の面談を意味あるものにするためにも、民間企業や公務職場はまず、日々の労働時間を正確に把握することに取り組むべきです。パソコンの操作記録や入退館記録などを活用し、それを可能にする仕組みを作らなければならない。正確なデータを把握しないことには、労働時間を減らすための業務見直しや業務量の調整作業は進みません」

 神奈川県の黒岩知事は裁判所の和解勧告を受けると表明した9月6日の会見で、こう述べている。

 「亡くなられた職員は、私もよく知っている職員です。誰に対しても優しく、仕事の面でも、まじめで優秀な職員でした。 彼が過重な業務に起因して自ら命を絶ったことについて、県行政の最高責任者として、改めて、ご遺族に心からのお悔やみと、お詫びを申し上げます。申し訳ございませんでした。

 彼の死を決して無駄にしないよう、そして、このような悲しい出来事を二度と起こさないよう、平成29年2月に、私を本部長とする『働き方改革推進本部』を設置し、パソコンのログの記録も活用した時間外勤務の管理や事前命令の徹底による長時間労働の縮減などの「働き方改革」に取り組んできました。この和解を契機に、県庁の『働き方改革』をさらに徹底してまいります」

 知事の言は本当に実を結ぶのか。神奈川県庁は長時間労働からもパワハラからも無縁になっているのか。民事訴訟の次回弁論は10月28日。原告の母親に請求通り、神奈川県が約1億円を支払うなどの和解案が正式に成立する予定だ。

(写真:本間誠也)

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本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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