疑念を膨らませた赤旗の取材チームはまず、2019年4月13日に開催された桜を見る会について、ネットで情報を集めた。「桜を見る会」「自民」などの語句で検索すると、次々に情報がヒットする。誰がどこから参加したのか。参加してどう行動したのか。安倍首相の地元・山口県の後援会関係者らにとって、桜を見る会への参加は滅多にないことであり、思い出の機会だったようだ。参加者の多くはツイッターやフェイスブックに当時の様子を投稿していた。山口県から東京までの「桜を見る会ツアー」の様子をアップし、発信した人もいる。地元県議らには、前夜祭や桜を見る会に参加した時の楽しげな様子を自身のHPで報告していた。
こうしたネット上で得た情報を裏付けるため、取材チームは山口県に向かう。共産党の地方議員の人脈、コネクションなどを通じて安倍氏の後援会員らと会い、取材を進めた。そして、「桜を見る会ツアー」に安倍首相の地元事務所が深く関与していることを示す内部資料も入手した。その成果が冒頭で紹介したスクープである。
もっとも、大手新聞や通信社、テレビ局などは当初、赤旗日曜版のスクープを追いかけるでもなく、様子を決め込んでいた。世間の反応も薄い。山本編集長は毎日新聞のインタビューの中で「スクープとしては、ホームランとは言わないけれど、会心の一打だと思った。でも、ほとんど相手にされませんでした」と振り返っている。
「そもそも赤旗のスクープは大手メディアも追っかけないケースが多いです。今でこそ『(週刊)文春によると』という引用はありますが、『赤旗によると』は書きづらい。だから、他のメディアの方からは、『国会で(赤旗のスクープ記事を共産議員が)取り上げてください』と言われます。国会でやれば書けるということらしいです」
状況が変わったのは、11月8日の参院予算委員会で桜を見る会を取り上げた田村氏の質問だった。
「ツイッター上で、委員会のやりとりが話題となり、『おかしいぞ』という声が上がり始めたのです。そして、その後、野党が追及チームを作り、ワイドショーでも取り上げられるようになりました。昔なら、赤旗のスクープは大手紙が追っかけてくれなければ、世の中にその問題が知られることがなかったのですが、いまはネットがあるから、問題が広がります。桜を見る会は、今の世論の作られ方としても興味深かったですね」
その後の展開は多くの人が知る通りだ。野党共闘で桜を見る会の追及チームができ、新聞・テレビは連日、その様子を報道した。「公金を使った有権者の買収ではないか」「前夜祭の費用が安すぎる。差額は地元有権者への金品供与ではないか」といった批判も高まり、大きな社会問題に発展した。さらに弁護士や市民らは政治資金規正法違反(収支報告書の虚偽記載)などの疑いで、安倍氏を刑事告発。東京地検特捜部は秘書を略式起訴しただけで、安倍氏は不起訴処分としたが、検察審査会は「前総理の不起訴は一部不当」と議決し、特捜部が再捜査している。
一国の総理の足元を揺るがせた赤旗日曜版の調査報道。そのパワーは政治を動かし、社会を動かし、今なお波紋を広げている。
■参考URL
【全文公開】しんぶん赤旗日曜版 桜を見る会スクープ第1弾
赤旗はなぜ桜を見る会をスクープできたのか 見逃し続けた自戒を込めて、編集長に聞いてみた(毎日新聞)
桜を見る会問題(時事通信)
単行本『赤旗スクープはこうして生まれた「桜を見る会」疑惑』(しんぶん赤旗日曜版編集部)
単行本『汚れた桜 「桜を見る会」疑惑に迫った49日』(毎日新聞「桜を見る会」取材班)