公費天国 キャンペーン(朝日新聞 1979年)
[ 調査報道アーカイブス No.29 ]
カラ出張、ヤミ給与、接待行政、そして巨額の裏金づくり。バレそうになったら公文書を改ざんし、隠ぺい工作……。省庁や公団が税金にたかり、食い尽くしていく。その様子は現在の腐敗した官僚や天下り機関のように映るが、これは1979年の話だ。朝日新聞の調査報道によって次々と明るみに出た「公費天国」の実態である。
自民党の大平正芳政権下での衆院解散・総選挙が確定的となり、朝日新聞の朝刊1面に「衆院解散、総選挙へ」という大見出しの記事が踊ったのは、1979年9月8日だった。その紙面の左肩には、これも大見出しが踊っていた。
「鉄建公団が不正経理 組織的にカラ出張 長期、年数億円の疑い」「会計検査院が本格調査」「一部は政治家に寄付も」――。
日本鉄道建設公団(鉄建公団、現在の独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が名古屋や新潟の支社などでカラ出張を繰り返し、数億円分の経費を不正にプールし、自在に使っていたという内容だ。「測量および調査試験費」という経費に含まれる出張旅費をごまかして裏金をつくり、一部を国会議員に献金していたのだという。「測調費」の6〜7割はカラ出張とされている。
続いて9月10日朝刊では「鉄建公団 文書改ざん」「検査前にカラ出張隠し 新潟新幹線建設局」と偽装工作について報じた。調査報道によるスクープ記事を連発する一方、9月13日からは連載「公費天国―タカリとムダの構図」をスタートさせた。税金を食い物にしてヤミ賞与や身内の飲み食いに費消しているのは鉄建公団に限らず、他の公社・公団、さらには中央省庁にも及んでいるという内容だ。
カラ出張や会議費水増しなど組織ぐるみの不正経理問題を手始めに、郵政省(現・総務省)の旅費不正請求問題、他省庁による赤坂・高級料亭での大蔵省(現・財務省)官僚への接待問題……。当時は「慣習」とされ、誰も問題にしてこなかった公費使い放題の実態を朝日新聞は次々と明るみに出していく。不正経理による裏金づくりや税金の無駄遣いは、ほぼ全ての省庁に及んでいたことが浮き彫りになった。
現場記者の一員としてこの取材を手掛け、後にリクルート事件報道の指揮を執ることになる山本博氏は「権力VS調査報道」(旬報社)に掲載されたインタビューで、「ジャーナリズムが全面的な調査報道を独自に行うようになったのは、1979年の朝日新聞による『公費天国キャンペーン』が皮切りです」と語っている。