「バランスを取るべき」という指摘は正直「どうでもいい」 だから私は「貧困」を追いかける  

  1. オリジナル記事

「ハザードランプを探して」の藤田和恵さんに聞く (SlowNews 2021.11.5)

 ――コロナ禍で貧困の現状が可視化される以前から、それも相当前から、藤田さんは働き方や貧困の問題に取り組んでいます。特段のきっかけがあったんでしょうか?

 藤田 貧困の背景には“劣悪な働かされ方”の問題があると思っています。そうした意味で、貧困問題を考えることになったのは、北海道新聞の社会部記者時代ですね。2000年代になったばかりの頃です。労働問題担当となり、派遣労働者をテーマにした連載「『派遣さん』と呼ばないで」を取材、執筆したことが直接のきっかけです。

 今でこそ、「派遣社員」という語句は当たり前に使いますが、当時の新聞記事では派遣社員とはどのような雇用形態かという枕詞が必要でした。「勤務先の企業とは正規の雇用関係を結んでいない『派遣社員』」とか、「派遣会社と雇用契約を結び、別の企業で働く『派遣社員』」とか。そういう“言葉の説明”が必要だったんですね。

 細切れ雇用を繰り返す不安定な身分だったので、クレジットカードも作れない、車や家のローンも組めないという派遣社員もいました。簡単に雇い止めにすることもできたので、女性の派遣社員はセクハラ被害に遭いがち。現在ではよく知られた実態かもしれませんが、当時は「こんな働き方が許されるのか」という驚きと強い憤りを抱きながらの取材でした。

藤田和恵さん(撮影:穐吉洋子)

 

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 ――スローニュースで連載して本になった『ハザードランプを探して』も含めて、最近の取材で驚いた経験は?

 藤田 そうですねえ…では、ある20代の男性の話を。この男性は、寮付き派遣などで働いていましたが、コロナ禍で雇い止めに遭い、路上生活も経験しました。取材中、私が「ひどい働かせ方ですね」と言うと、男性はこう持論を語ったんです。「僕は寮付き派遣も悪くなかったと思っています。経営者の目線に立ったら正社員を雇うことのリスクも理解できます。そもそも日本の企業がすべて法律を遵守していたら、経営が立ちゆかない、世界と戦えませんよね」と。

 この男性は経営者でも、社長でもありません。それなのに、なぜ、経営者の目線に立つのか。私が「そんなことを言って、喜ぶのは悪徳経営者だけでは?」と指摘しても、この男性は持論を曲げませんでした。

 生活困窮状態にある人、特に若い人たちの中には「寮付き派遣でも仕事があるだけありがたいです」「声を上げて周囲に迷惑をかけたくないのでユニオンには入りません」という人もいます。究極の不安定雇用であるという理由で原則禁止されている「日雇い派遣」についても「日雇い派遣のおかげで食いつないでこられたのに、なぜ禁止するんだ」と逆に批判されたこともありました。

 労働関連法や制度について知らない人、あるいは知っていても空気を読んで口をつぐむ人が増えた。いつ雇い止めに遭うか分からないという不安もあると思いますが、「権利の行使に消極的な人」が増えたと感じます。おかしいことをおかしいと言わない、言えない、言わせない。それが今の日本社会です。

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 これは<「バランスを取るべき」という指摘は正直「どうでもいい」 だから私は「貧困」を追いかける>と題する記事の抜粋です。インタビューに答えているのは、フロントラインプレスのメンバーである藤田和恵さん。藤田さんは「貧困」「非正規」「働かせ方」「生活保護」「ギグワーカー」「派遣」といったキーワードを軸に、人々の働く現場と暮らし、労働と貧困の接点で取材を続けています。その眼に映るのは、日本の縮図――。

 藤田さんへのインタビューを軸に構成されたこの記事は2021年11月5日、スローニュースで公開されました。聞き手はフロントラインプレス代表の高田昌幸です。全文は同サイトで読むことができます。ここをクリックしてアクセスしてください。

■藤田和恵さんの作品
単行本「不寛容の時代 ボクらは『貧困強制社会』を生きている」
単行本「ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う」
スローニュース連載「ハザードランプを探して」

高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

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