◆「中央メディアの記者って何をやってるんだ?」
水島氏はもともと、日本テレビ系列の札幌テレビ(STV)にいた。その時代、札幌市内の市営住宅で、母子家庭の母親(39)が男の子3人を残して餓死する事件を取材した。離婚後、一時生活保護を受けていたものの、病院で付添婦として働いていたことを理由に打ち切られ、困窮した上での餓死だった。この事件に水島氏は強い衝撃を受ける。当時、マスコミは「不正受給キャンペーン」を華々しく続けていた。関係省庁の発表に基づく、垂れ流し記事の連続である。それに怒りを覚えていく。
当時私は地方局にいて、地方でそういうお母さんたちの声、当事者の声を聞いて、一体、どうなっているんだろう?と。中央メディアの記者連中っていうのは何をやっているんだ。自分たちで検証もせず、行政の発表をただただ垂れ流しているだけじゃないかと。(『「境界」に立つジャーナリスト』から)
そして水島氏は「母さんが死んだ〜生活保護の周辺〜」(1987年10月、札幌テレビ)という著名なドキュメンタリー番組を制作する。その時代から水島氏のスタンスはぶれなかった。徹底的に「地方」「現場」にこだわり、省庁に群がっているだけでは決して届かない「声なき声」を聞きに行くスタイルだ。
現場でこそ、人を理解する、社会を理解することができる。「事実が私を鍛える」という斎藤茂男氏、「矛盾の地下茎は地方で顔を覗かせる」という原寿雄氏。いずれも故人となった共同通信記者の言葉を引き合いに出しながら、水島氏は、とにかく現場に足を運びなさい、そのための労を惜しんではいけない、と後に続くジャーナリストたちを叱咤激励している。
■参考URL
単行本「ネットカフェ難民と貧困ニッポン」(水島宏明著)
単行本「母さんが死んだ〜しあわせ幻想の時代に」(水島宏明著)
NNNドキュメント(公式ページ)
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