なぜこんな冷酷なことができるのか? ウィシュマさんの死と入管 指宿昭一弁護士語る

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◆ビデオがメディアに流れたら大変なことになる

 指宿弁護足はウィシュマさんの状態を撮影したビデオについても言及した。亡くなる2週間前から撮影されていたものが残っている。

 ウシュマさんの一人部屋の天井から撮ってるビデオが存在します。遺族は亡くなる2週間前からの映像を全部くださいと言っています。でも、実現していません。ほんの一部分を入管が編集して、1時間10分にして遺族が見ました。裁判所の証拠保全という手続きを通して私も少しだけ見ました。どんどん衰弱して、誰が見ても入院させなければだめだと分かります。

 それが分かるから公開しないんです。メディアで流れたら大変なことになる。ショッキングだったのは亡くなる2日前と当日の映像です。もう本当に死にゆく人の状況でした。少し叫び声をあげたりしてるんですね。その後、泣き声になるんです。映像や音声というのは力がありますよね。こういうものを隠し通そうとする入管の姿勢は大問題だと思います。

 ある人の証言によると、ウシュマさんが亡くなった直後、女性の入管職員が階段の踊り場で肩を抱き合って泣いていたそうです。入管の職員に人間の心がないと私は思いたくありません。ウシュマさんと主に接触していたのは基本的に女性職員ですけど、心を痛めていると思います。それでも、わたしはあえて言いたい。なぜ、あなたたちは救急車を呼ばなかったのか。おそらく厳しい規則があるんだと思います。勝手に呼んではいけないと上司から止められてたんだ、と。でも、それに逆らってでもなんで呼ばなかったのか。人の命を救えたら処分されたっていいじゃないですか。処分するような入管と闘う気はないんですか、と。

名古屋出入国在留管理局のTwitterアカウント。過去にさかのぼっても、ウイシュマさん関連のツイートは見当たらない

 

 入管施設でなぜ、こんな冷酷で残酷なことが繰り返し起きるのかー。指宿弁護士は「入管という組織には歴史的にぬぐいがたい問題点がある」と述べ、「戦前の特別高等警察(特高)の流れを汲んで、外国人などによる治安悪化を取り締まる組織として入国管理庁が存在する」と言う。そして「外国人を敵視し、危険な存在だとして管理・抑圧しようとする入管の体制を変えることができるのは市民の力以外にない」と訴えた。

 

◆入管の問題点 「全件・無期限」収容、第三者のチェックもなし

 入管収容の問題点として、指宿弁護士は3点を挙げる。

①逃亡の恐れがない外国人もすべて収容しようとする「全件収容主義」
②期間が定められていない「無期限収容」
③仮放免の可否は入管の裁量で決まり、収容をめぐって裁判所など第三者のチェックが効かない

 

講演会で配布された資料(撮影:本間誠也)

 

 この講演で指宿弁護士は、米国務省から「人身売買の制度」と批判された技能実習制度にも言及した。この制度には構造的に2つの大きな欠陥があったうえ、「そもそも制度の目的自体にウソがある」と言い切った。

 技能実習制度の目的は「技術移転を通じた国際貢献」なんですって。日本中の人に聞いてみたい。これを信じてる人はいますか、って。労働力確保のための受け入れであり、来る人たちは出稼ぎが目的です。おかしな建前のもとで実習生たちは人権などを保護されていない。大きな問題は、同じ職場で3年間働かねばならないこと。問題があっても職場の移動の自由がない。さらに大きな問題は「労働力マッチングの過程で中間搾取と人権侵害」がなされていること。労働力マッチングとは、求人と求職のことです。国を越えるからハローワークが使えず、ブローカーが入ってくるんです。

 例えばベトナムでは「送り出し機関」がいて、日本には「監理団体」がいます。この2つのブローカーが多大なお金を取ってマッチングをやるわけです。ベトナム人から平均年収の4倍の100万円を取るんですよ。持ってないから借金して来ます。返すために日本で必死に働く。職場の異動の自由がないから、セクハラがあってもパワハラがあっても、賃金が安くても法令違反があっても黙って働くしかない。これが奴隷でなくて何が奴隷ですか? 現代の奴隷なんです。送り出し機関はほかにも悪さをやっているし、監理団体もキックバックを受けたり、各受け入れ企業から実習生一人当たり月に3~5万円くらいの管理費を取っていたり。この制度は廃止すべきです。

 ですが、こういうものを存続させようとする勢力が日本に根強くあるんです。自民党も問題意識を持ちながらも基本的には制度の維持です。技能実習を3年間やった後に「特定技能」という新たな制度を国は作りました。技能実習よりはマシですが、これもブローカーが食い込んで搾取できるような制度にいま、変えられようとしています。

 

外国人のパスポートに貼られる、日本への入国シール(出入国在留管理庁紹介映像から)

◆使い勝手よく使って、要らなくなったら強制帰国させるのか?

 2020年10月末現在、国内の外国人労働者数は172万4328人。16年に初めて100万人を突破して以来、毎年20万人ずつ増え、コロナ禍がなければ200万人を超えていた可能性は高い。

 こうした外国人労働者の受け入れ制度が存続してしまうのは、外国人の人権なんかまるで考えない、外国人は管理と抑圧の対象で危険な人たちだという見方が背景にあるからです。そうした考えなら受け入れなければいいのに……。日本経済のことを考えればそうもいかない。

 働きに来る人たちは、私たちと同じ生身の人間です。使い勝手よく使って、要らなくなったら強制的に帰国させればいい―。そんな受け入れだったら絶対にやるべきではありません。外国人労働者に頼らず、少子高齢化で経済的にどんどん衰えていくほうがよっぽどまともだ。私はそう思っています。

(取材・構成:フロントラインプレス 本間誠也)

 

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本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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