旭川医科大学で昨年6月、北海道新聞社旭川支社の新人記者が逮捕された事件で、同社は12日までに社内処分を決めた。逮捕された記者は編集局長による「口頭指導」、取材を指揮したキャップと担当デスクは編集局長からの「厳重注意」となった。これらは社内規定に基づく懲戒処分ではなく、現場で懲戒処分された者は1人もいない結果となった。また、小林亨編集局長は自ら役員報酬減額10分の3(1カ月)とした。
この問題を巡っては、新人記者が建造物侵入容疑で旭川医科大学の職員に現行犯逮捕(常人逮捕)され、キャップとともに同容疑で書類送検されていたが、旭川区検は今年3月31日、不起訴処分としていた。
北海道新聞社の関係者によると、編集局幹部は社内向けの説明で次のように述べたという。
小林局長の処分については「組織取材の仕方に反省点があったことは否めないため、管理・監督責任を取ることにした」と説明した。また、キャップ、デスクに対する厳重注意の内容については、「組織取材において不適切な点があった。再発防止に向けて留意してほしいと伝えた」としている。また、これらとは別に、当時の旭川支社報道部長と編集局次長(地方担当)に対しても、編集局長から厳重注意が行われた。
入社間もない段階で逮捕された記者について、編集局幹部は「今後も頑張って仕事してほしいという意味合いを込めて指導した」と言及した。さらに、記者の取材行為そのものが逮捕事案となった今回の問題について、「読者、社会の信頼を揺るがしかねない大きな問題だったと考える」と説明した一方で、「従来と変わらない取材手法を取っていれば、防ぐことは十分に可能だったのではないか。報道機関にマイナスの影響を与えるものとは考えていない」と述べたという。“従来と変わらない取材手法”が何を指しているのかは、明らかにされていない。
小林局長の処分については「役員の責任の取り方としては、これまでで最も重い事案。同じレベルの処分は、過去に2例しかない」と説明したという。
事件が起きたのは昨年6月22日。旭川医科大学の校舎に許可なく入ったとして、大学職員が22日、記者(当時22)を建造物侵入容疑で現行犯逮捕し、北海道警旭川東署員に引き渡した。大学ではこの日、学長の解任を議論する学長選考会議が開かれていた。記者は非公開だったその会議を取材するため、無断で校舎に入り、廊下で中の様子を録音しようとしていたところで、職員に見つかった。取材活動中の記者が逮捕されるという最近では稀な事件だったことから、「逮捕の必要があったのか」と大きな議論を呼んだ。また、当の北海道新聞だけが記者の実名を報じ、その後の対応・読者への説明も要領を得なかったことから強い批判を浴びていた。
■参考
『記者逮捕 その時、新聞社で何が起きたか』(フロントラインプレス 2021年8月30日)
『記者逮捕 その日、新人記者は指示に従っただけだった』(SlowNews)
『調査報道は端緒がすべて それを実例から見る 「権力監視型の調査報道とは』【1】(フロントラインプレス 2022年1月31日)