◆過去数十年で11兆円超の不正預金 報道機関の協働で明らかに
スイスの銀行大手クレディ・スイスが過去数十年の間に数十億ドルの不正預金を受け入れていたことが2月20日、調査報道で明らかになった。英国のガーディアン紙など世界の48報道機関が加わる「組織犯罪・汚職報道プロジェクト(OCCRP)」が出掛けた調査報道で、「スイス・シークレット」と名付けられた。日本語メディアはほとんど報道していないが、内部告発によってもたらされた情報量は膨大。不正の行方は欧米で大問題になっている。
AFP通信やロイター通信の報道によると、クレディ・スイスは国際的な銀行規定に違反し、数十年間にわたって犯罪や汚職に関連した不正資金を預かっていたという。内部告発によって提供されたデータは1万8000件超の口座情報など。その預金総額は最も多かった時で1000億ドル(約11兆5000億円)相当に上るとされる。口座の多くは2010年代に入っても維持されたままで、このうち問題のある口座に保有されていた資産は合わせて80億ドル(約9000億円)を超えるという。
一方、お膝元のスイスでは、一連の調査報道に加わったジャーナリストは、最長5年の禁固刑に処される可能性になるとして議論になっている。swissinfo.chによると、1934年制定のスイス銀行法は、銀行が国内顧客の秘密を漏らすことを禁じている。またドイツなど他国に情報流出する例が相次いだことを受け、2015年の改正銀行法では漏洩データを受領・利用した人はジャーナリストも含めて処罰の対象になった。このため「スイス・シークレット」を報じたスイス国内の一部メディアは苦しい状況に追い込まれるかもしれないとして、swissinfo.chは次のように報じている。
スイスではこれまでに数人の内部告発者がデータ漏洩で投獄されてきた。大手メディアがスイス法廷で「公共の利益」を掲げて反論した例はない。スイス・シークレットに参画した英ガーディアン紙は「仮にも世界報道自由度ランキングのトップ10に名を連ねるスイスのような国で、表現の自由に対し恥知らずな攻撃が加わりかねない」ことに苦言を呈した。国境なき記者団(本拠・パリ)は、スイス銀行法を「情報の自由に対する耐え難い脅威」と非難し、スイス当局に対して銀行のデータを受領した記者を起訴しないよう求めた。
また、国境なき記者団のスイス事務局長は「流出した銀行データによって暴露された情報が事実であり、一般に関心の高い事項に関する議論に資するのであれば、メディアによる公開はスイス連邦憲法と欧州人権条約が保証する報道の自由によって保護されるべきだ」と指摘しているという。
OCCRPの報道を見ると、この後も「スイス・シークレット」に関する報道は続きそうだが、「当局+銀行」と調査報道の戦いは内部告発者を特定して処罰するか、報道側がそれを守りきれるかも大きな焦点になりそうだ。
■関連URL
『Historic Leak of Swiss Banking Records Reveals Unsavory Clients』(OCCRP.org 2022年2月20日)
『クレディ・スイスに9200億円の不正預金 調査報道で発覚』(swissinfo.ch 2022年2月21日)
『クレディ・スイスに「汚れたマネー」疑惑、調査報道受け当局も対応』(ロイター通信 2022年2月22日)
『報道の自由を脅かすスイスの銀行秘密』(swissinfo.ch 2022年2月23日)