内部告発者の「誇り」と「悔い」 事件後の日々を追って

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内部告発者の「誇り」と「悔い」 事件後の日々を追って (2017・6・14 Yahoo!ニュース特集)

 不正と思われる行為を知ったら、組織人のあなたはどうするだろうか。処分や不利益を覚悟の上で、それを表に出すことができるだろうか。迷いに迷った末で、内部告発者になる人たちがいる。それによって企業経営が揺らぎ、政治や社会が動くこともある。「東芝の粉飾決算」「免震ゴム偽装」といった最近の出来事でも、背後には内部告発があった。内部告発には正義感や義憤だけでなく、私怨や私憤も絡む。人はなぜ、内部告発を行うのか。その後の人生には何が降りかかるのか。内部告発者3人のその後を追うと、「誇り」も「後悔」もあった。

◆神戸の街角で「負けへんで」

 神戸・元町の繁華街で、水谷洋一さん(63)は月に数回、ハンドマイクを握る。金髪に度つきのサングラス。必ず赤いTシャツを着込み、「まけへんで!! 西宮冷蔵」ののぼりも立てる。傍らにはいつも重度身体障害者の娘、真麻さん(28)がいる。
足元には手作りの小さな看板もある。「食品偽装は今でも私たちのすぐそばで行われています!」「知らないのはあなただけかも!?」の文字。そこにも「負けへんで」とある。
4月末の金曜日、その日も水谷さんは元町の繁華街に立った。娘と街頭に立つようになって5年余り。「雪印食品牛肉偽装事件」は多くの人が忘れたかもしれない。若い世代は事件そのものを知らない。まして、水谷さんの経営する「西宮冷蔵」(兵庫県西宮市)という企業を知る人は、地元以外にほとんどいないに違いない。

◆名門「雪印食品」の偽装を告発

 水谷さんの内部告発はちょうど15年前の2002年だった。
その前年の秋、日本で初めて狂牛病の牛が確認され、畜産農家や食肉業者は牛肉の出荷・販売ができなくなった。これに対し、農林水産省は国産牛肉の全量を買い上げる制度を設け、業界の救済に乗り出す。ところが、その制度を悪用し、輸入牛肉を「国産」と偽って助成金を騙し取ろうとする業者が現れた。「スノーブランド」で知られた名門企業・雪印食品もその一つだった。
同社の社員たちは2001年10月31日、輸入牛肉の保管先だった西宮冷蔵で「偽装工作」を密かに行う。豪州産を「国産」という箱に次々と詰め替えたのである。それを知った西宮冷蔵の社長、水谷さんは雪印側に対し、「『買い上げ申請の牛に間違いで輸入牛が混じっていた』と謝るべきだ」と告げたという。自らの倉庫内で行われた偽装。自分や世間をなめとったらいかんぞ、との思いがあったとも言う。
しかし、雪印食品が応じることはなかった。西宮冷蔵が調べたところ、同社の倉庫内では計13トン、買い上げ価格ベースで約1500万円の偽装工作が行われた。雪印食品全体の偽装は計約2億円分に上ったことが後に判明している。

◆名門企業は消滅「告発の破壊力は予想以上」

 「内部告発の破壊力は良くも悪くも予想以上でした」
2002年1月に新聞社などに偽装の事実を連絡した水谷さんは、そう振り返る。名前もさらけ出しての告発。それをきっかけとして新聞やテレビが取材に動き、牛肉偽装は連日、トップニュースになった。雪印食品も事実関係を認めて経営が急速に悪化し、告発から3か月後に同社は解散してしまう。
年商約2億円の西宮冷蔵も深刻な経営難に陥った。長年の取引先が相次いで契約を打ち切ってきたからだ。さらに「雪印食品と共謀して在庫証明を改ざんした」として、国から営業停止命令を受け、2002年末に休業を強いられてしまう。資金不足になり、自社と自宅の電気も止められてしまった。
「不正を告発したんだから、てっきり国から感謝されるもんだと思ってたんです。営業停止は青天のへきれき。取引先が次々と逃げていったのも計算違い。(告発によって)雪印食品のライバル企業は喜ぶだろうと思ったけど、それも浅はかでした。あとから相次いで発覚しましたが、よその会社も牛肉偽装やってたわけです。畜産業界全体を敵に回してしまったんです」

◆一転、自社も経営難に

 西宮冷蔵を休業した後、水谷さんは大阪・梅田の陸橋で路上カンパを募るなどして資金を集め、2004年春に従業員5人で営業再開にこぎ着けた。初荷は無添加のアイスクリーム。「これからは食の安全を発信していきたい」と宣言し、倉庫内の荷物は一時、最盛期の7割にまで回復した。
そうした中、売り上げの6割を占めていた野菜輸入業者との取引が停止になった。他の野菜輸入業者も取引をやめていく。
「あの取引が終わったのは(輸入検査などが終わっていない)中国産の冷凍野菜を市場に出荷するよう輸入業者に迫られ、それを断ったからです。(立場の強い者が不正を強いる)優越的地位の乱用ですよ。あんな農薬まみれの冷凍野菜、食品検査をパスするはずない。言われるまま出荷してたら、何のために雪印を告発したのか分からんようになる」
水谷さんが続ける。
「(自分の生き方が)正直すぎて向こう見ず、と言う人もおるけど、メディアに押し上げられて(自分のイメージが)作られてしもうたから、もう今はそれを貫くしかない。次、生まれてきたらチマチマと金儲けしますけど、もう無理。(違う生き方は)あきらめました」

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 この記事は「内部告発者の『誇り』と『悔い』 事件後の日々を追って」の冒頭部分です。フロントラインプレスの中心メンバーである本間誠也さんが取材し、2017年6月14日、Yahoo!ニュースオリジナル特集で公開されました。
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内部告発者の「誇り」と「悔い」 「事件後」の日々を追って(Yahoo!JAPANニュース)

 本間誠也さんは以前から「内部告発の行方」に強い関心を寄せています。内部告発者が守られない日本の現状、逆に不利益を被った関係者の肉声。それらの取材を現在も丹念に続け、多数の記事を発表してきました。公益通報者保護制度にも大きな関心を寄せています。
この記事を取材していた2017年当時は、フロントラインプレスの構想が少しずつ具体化していたころです。「内部告発者を徹底して守らなければ、不正や不作為は減らない」。フロントラインのメンバーは当時から変わらぬ考えを抱いています。

本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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