日米公文書発掘 (2021.4.6 SlowNews)
米軍人が罪を犯しても日本の捜査当局はすぐに手出しができない。その源流となる「日米行政協定」が結ばれたのは、1952年4月。アメリカと日本、各地に散らばった公文書を重ね合わせ見えてきた緊迫の「日米交渉」、独自調査による70年目の新事実。
◆「この案は殺さねばならぬ」
米国の元陸軍大佐、アン・ライトさんは、「地位協定」の存在を知ったときのことをよく覚えている。初年兵としての訓練中のことだった。
「教官に言われました。海外で何をしても、その国の司法制度で裁かれることはない。君は地位協定で完全に守られているんだ、と」
米国は現在、世界各地に800以上の軍事基地を展開しており、基地の受け入れ国とは例外なく地位協定を締結している。地位協定とは、米軍の兵士や施設などに関する法的な取り決めを指す。米国防総省によると、その数は現在100以上。日米地位協定もその一つだ。
ライトさんは1967年に米陸軍に入隊した。オランダやドイツなどNATO(北大西洋条約機構)諸国の米軍基地で任務に就いた後、大佐で退役。外交官に転じて、ニカラグアやソマリア、シェラレオネ、アフガニスタンなどの米国大使館で勤務した。戦争や内戦、紛争の途切れない地域ばかりで、いずれも米国が大きく関与している国々である。その後、2003年3月、ブッシュ政権のイラク侵攻に抗議して外交官の職を辞した。
この1年、米国はコロナ禍で苦しんだ。感染者は3040万人以上、死者は55万人以上。筆者の住むカリフォルニア州ではロックダウン(都市封鎖)と自宅待機指示が続いた。オンライン取材で向き合ったハワイ在住のライトさんも、不自由な生活を送ってきたようだ。
画面の向こうのライトさんには、30年以上も軍事と外交の最前線をくぐり抜けてきたとは思えない柔和さがある。そして、柔らかな口調で「米国がなぜ地位協定をつくったか、分かりますか? 米国の軍人に特権を与えるためです。それ以外の理由はありません」と語り始めた。
「米軍が日本駐留を始めたのは、1945年です。あれから時は流れましたが、地位協定の目的自体は変わっていません。つまり、基地の内外にかかわらず、米国がどんな時も裁判権を確保できるようにすることです」
どんな時であっても米側が裁判権を確保できるように、とは? それは、いったいどういうことだろうか?
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この記事は「日米公文書発掘」の第1回、その冒頭です。
日本や日米関係を主に米側の公文書でトレースしていくと、いったいどんな姿が浮かび上がるのか。日本では“常識”とされていた歴史が、もしかしたら違ったものとして記録されているかもしれない――。
そんな問題意識からこの連載は2021年4月6日、サブスクの「スローニュース」で始まりました。連載は全5回。取材は在米ジャーナリストで、フロントラインプレスの大矢英代さんです。
記事の全文はスローニュースで読むことができます。以下のリンクからアクセスしてください。会員登録が必要です。
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公文書発掘の取材は現在も米側で続いています。