パワハラを通報したら「報復」 降格・減給、監視カメラ付きの追い出し部屋… 裁判に勝っても課題は残った

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◆「自主退職に追い込むための報復行為、嫌がらせ」「自殺も考えた」

 A氏は3度の処分を受け、追い出し部屋に押し込まれた日々について、裁判の陳述書でこうした内容を記している。

 1次処分による配転先では情報共有をしてくれないなどの嫌がらせに遭い、ストレスによる下痢や腹痛のほか、毎日のように下血していました。2次処分の後、暑い時期の1人での草刈りや剪定作業では体力も消耗してたびたび熱中症になりそうでした。産廃処理なども苦痛でした。社内での行動の自由や人間関係の自由を奪われ、精神的に苦しいものがありました。自主退職に追い込むための報復行為、嫌がらせだと強く感じました。

 社用車のカギを取りに第一事務所に行った際、モニターに監視カメラが撮影する隔離部屋の様子が映っていました。それを目にして、いつも社長や常務に継続的に監視されているという恐怖感、不快感から夜も眠れなくなりました。呼吸が乱れるなどして精神的にさらに苦しくなりました。

 A氏はパワハラ通報から2年余りが経過した2017年6月、A氏は心療内科を受診した。不快抑うつ反応と診断され、通院生活は今も続いている。B氏も陳述書の中で「処分を受けて精神的に落ち込み、自殺を考えたこともありました」と心境を記している。

 こうした原告2人の訴えに対し、被告のシェフォーレ社は2人に対する降格・減給処分や異動命令について、内部通報の報復ではないと全面否定した。
 A氏への最初の処分はセクハラやパワハラ、職務怠慢が原因だとし、十数件に上る実例を列挙。追い出し部屋の監視カメラについては「フードテロ対策」だと説明した。また、3度目の処分については「パワハラがやむことなく、継続している事実が発覚したためだ」と主張した。
 B氏への処分については、1次処分は「懲罰的な降格・配転人事ではない」とし、減給を伴う2次処分はトラブル発生時の対処やあいさつなどの勤務態度に問題があったため、とした。

◆裁判には勝った しかし…

 判決は今年9月8日、千葉地裁で言い渡された。処分前の副工場長などの職位をめぐる地位確認については「労働者には原則として就労請求権がない」として原告の訴えを認めなかったものの、2人に対するすべての処分について「(内部)通報に対する制裁、あるいはA氏、B氏を退職に追い込もうとするなどの不当な目的で行われたもの」「人事権、または懲戒権を濫用したもの」と断じた。そして、降格・配転後の職責で勤務する義務はないとした。
 一方、被告による「2人に対する処分はパワハラ、セクハラ、職務怠慢、勤務態度が理由で、人事権の正当な行使」との主張は全面的に退けられた。そのうえで、減額された給料の差額を被告に支払うよう判示したほか、シェフォーレ社には損害賠償としてA氏に約120万円、B氏に約80万円を支払うよう命じた。

 判決の翌日、A、B両氏は次のような内容のコメントを寄せている。

 「私たちの主張が概ね認められてうれしい。今回の事案は内部通報者への報復行為であり、時代に逆らっており許されるものではない。このような報復はなくなってほしいし、会社は真摯に受け止め職場環境を整えてもらいたい」(A氏)

 「(訴訟中は)不安定な精神状態のせいで家族に嫌な思いをさせたこともありました。そんな自分に嫌気がさして生きることさえやめてしまいたいと思う時もありました。そうした苦労が報われた気がします。いつか、誰かが自浄作用のスイッチのようなものを押してくれるのではという期待を持っていました。今後、誰一人として私たちのような経験をしないですむような社会になることを切に希望いたします」(B氏)

 被告は控訴せず、判決は確定した。

判決文

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本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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