住基情報・個人情報を行政が勝手にやりとり 自衛隊員の募集の違法性を問うた調査報道

  1. 調査報道アーカイブズ

 大治記者らの取材チームは、さまざまな内部文書を入手していく。その中に、自衛隊石川地方連絡部と石川県が作成した市町村向けの自衛官募集マニュアルがあった。そこには、4情報以外の個人情報についても、市町村から自衛隊側に提供するとの取り決めがあった。
 4情報以外の個人情報には、「世帯主との続柄および世帯主名」「職業、健康状態など募集上参考となる事項」があった。個人の機微に関わる、極めてプライベートな情報が、当人の全く預かり知らぬところでやりとりする仕組みができていたのである。実際、七尾市は保護者名を記載した適齢者名簿を地方連絡部に提供していたことも突き止めた。

 「自衛官募集に住基情報」「健康状態など『18歳リスト』」「防衛庁 多くの自治体協力」―。こうした見出しのスクープは、2003年4月22日の朝刊1面に掲載された。社会面には、「『家庭環境までも…』 父母ら憤りの声」「自治体『要請断れない』」といった見出しが並んだ。
 記事の中には、複雑な家庭環境のため、高校3年生の子どもの住所を一時、親類宅に置いていた母親の声が掲載されている。

 「家庭環境まで推測できる名簿を市役所が自衛隊に渡していたなんてショック。名簿は売られてしまうかもしれない。許されないと思う」

 記事が掲載されると、当時の石破茂防衛庁長官は「4情報以外は保護者の名前でも入手していいものではない。健康状態を入手することはあってはならない」と発言。間もなく、防衛庁は「情報収集は4情報に限定」という事務次官通達を出した。
 また防衛庁は当初、4情報以外の個人情報が提供されていた自治体数について、「332市町村」と公表していたが、毎日新聞の全国調査の結果、2度にわたって公表数字の訂正に追い込まれる。4情報以外も提供していた自治体数は、最終的に「557市町村」に達した。

 大治記者は2003年10月15日の毎日新聞朝刊「取材の現場から」でこう書いている。

 自衛官の募集は重要な任務で、多様な手段を用いてよい、という声もある。しかし、だからと言って、「多少の犠牲を払っても国民が納得するのは当然」という感覚であってはならない。本籍や続き柄を秘しておきたいという人は少ないかもしれないが、行政機関による情報収集は、そのような人々にも配慮する必要がある。
 今春、個人情報保護法が成立した。行政機関は所管する法令にとらわれず、同法の趣旨に反する法令や運用がないか、自ら検証する必要がある」

 「官」による個人情報の取り扱いには、粘り強く子細な監視が必要―。この調査報道は、その重要性を伝えている。

■参考URL
毎日新聞の紙面
上智大学における大治朋子記者の講演資料と記事コピー(上智大学のサイト)
自衛官募集のため防衛省に住基情報提供 全自治体の4割に 政権圧力で増加(毎日新聞記事 2020年8月13日)

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本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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