警察はなぜ動かなかったのか 徹底取材で迫る「太宰府主婦暴行死事件」報道

  1. 調査報道アーカイブズ

◆公安委員までも取材する記者「命が奪われているのになぜ笑う?」

 TNCテレビ西日本の追及は、それから長く続いた。警察の対応は適切と言えるのか。家族らが鳥栖署を訪れた際の対応、その一つ一つを検証しながら、警察側の不作為や対応のまずさを突いていく。この問題が佐賀県議会でも取り上げられるようになると、議員にも見解を求めた。さらに、今年秋に入ると、県警を管理する佐賀県公安委員会の委員にも1人ずつ、カメラとマイクを向けていく。

 地方メディアにとって警察は重要な取材先だ。地域の治安に関する情報は視聴者の関心も高い。そのため、警察を敵に回すかのような取材には、どうしても及び腰になりがちだ。しかし、TNCテレビ西日本にとっては、そんなことはお構いなしだったようだ。

事件で亡くなった主婦(TNCテレビ西日本のHPから)

 

 この秋、佐賀県議会では、事件への対応が適切だったかどうかを再調査してほしいという請願が提出され、審議された。しかし、再調査に賛成した議員は2人だけ。公安委員長が答弁に立つ直前、自民党議員から「頑張って」とエールが飛び、2人はにこやかに笑顔を交わしたという。この光景に記者は怒った。10月1日放送分の最後は、こう結ばれている。

 1人の命が奪われているのに、なぜ笑みがこぼれるのか。

 取材を続けるTNCの記者の目には、「慣れ合いの構図」にしか映りませんでした。

 警察の落ち度が指摘されながら誰も責任を取らず、このまま事件にフタをしてしまっていいのか。

 佐賀県民に尋ねると-

◆佐賀県民
「自分たちの面倒なことはフタをするじゃないですか、そういう今の行政が嫌ですね、特に警察は嫌ですね」
「家族としては、真相を知りたいというのが本当じゃないですか」
「佐賀県に住むものとしても、しっかりと公表するいろんな事を、悪かったことは悪かったとして、そうしていかないと、反省しているのかなと(思う)」

 TNCの取材を受けた佐賀県民のほとんどが、再調査をするべきだと答えました。

 すくえた命…

 多くの県民が疑問を抱いたまま、瑠美さんの死は過去の出来事にされようとしています。

 TNCテレビ西日本が制作した報道ドキュメンタリー番組「すくえた命」(2021年5月放送)は、今年の日本民間放送連盟賞のテレビ報道部門で最優秀賞を受賞した。「対応の不誠実さと責任を逃れようとする警察組織の体質を追及していく姿勢は、『調査報道のあるべき姿』と高く評価した」と主催者はコメントしている。

■参考URL
TNC総力取材「すくえた命」太宰府主婦暴行死事件
【独自入手】佐賀県警の内部文書 本部長答弁と異なる“事実” 太宰府主婦暴行死事件(福岡TNCニュース、youtube公式チャンネル)
新潮文庫『桶川ストーカー殺人事件 遺言』(清水潔著)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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