警察や検察のやらない範囲をやるのが報道だ! その信念を貫いた「武器輸出」報道

  1. 調査報道アーカイブズ

◆「君らがつかんだネタは報道以外には使わない」。しかしー

 それでも、まだ問題は残されていた。韓国に輸出された物品は確かに大砲の部品の一つだが、それは他にも使える、例えば水道管のような汎用品か、それ自体が武器部品としての機能を持つのかという区分である。それを法に当てはめて判断するのは当局だ。

 節目ごとに報告を受けていた黒田氏は、武器輸出に関係する鉄鋼業者がこの数カ月前に外為法違反で兵庫県警から書類送検されたことを踏まえ、次のように話したという。読売新聞の取材班が著した『武器輸出』から引用しよう。

 「君らがつかんだネタは報道以外には使わない。捜査当局を含む第三者に漏らすべきでない。それでいて、なお、今回の事件は一応、地検に小当たりしてもいいように思う。一つは現に捜査が行われているフシがある(略)それともう一つ、武器の輸出はしない、もし輸出するようなときは通産大臣がしっかりと判断して決めるということが国の方針になっている。それをあえて許可を受けずにやっていたとすれば、法律的なことを含め当局の出方をきちっと見極めておいたほうがいいように思うんや」

 読売新聞の「小当たり」を受け、神戸地検は武器輸出の中心となった鋼材商社などを家宅捜索した。ところが、夜回り取材にやってきた大阪社会部の記者たちに検事正は「法律的には武器等製造法違反には該当しない」と回答する。「砲身と砲身に近いものでは法的にまるで違う」と説明したうえで、砲身を造ろうとした意図はあっても武器等製造法には未遂罪がないため、「半製品をいくら造っても現行法では罰せられない」旨を答えたという。

 報告を聞いた黒田氏は、次のような言葉で記者たちのやる気に火をつけた。

 「半製品か。これがポイントや。おもろいでえ。よかった、よかった。こりゃあ、全力投球や。新聞いうのは、いつも警察や検察のあと追いばかりしてきた。警察や検察が手出しできんもんで、世の中に必要なもん、ほんまはこれが新聞の領域や。警察や検察がやるもんをスクープするのもええが、それはしょせん、広報みたいなもんや。こんどの場合は違う。検察はやれん。しかし、日本には武器三原則がある。これが正面突破されたんや。これはいけるでえ」

◆スクープ連発、調査報道史に名を残す

 1980年の12月下旬、大阪社会部の記者たちは手分けして、韓国の商社に砲身の「半製品」を輸出した鋼材商社、製造を担った製鋼会社の幹部らに直接取材した。そのコメントからは、砲身の部品を輸出しているという認識を持っていたことが明らかだった。

 「武器半製品を韓国へ輸出 大阪の商社」
 「機械名目に4年間 米軍規格に合わせ」
 「砲身600門など3000点 政府3原則に抵触?」

 こうした見出しが1面トップに踊ったのは翌年1981年1月3日の朝刊だった。読売新聞大阪社会部はその後も「韓国向け武器半製品 関東特殊鋼も製造 『砲身』示す設計図 本社入手」「対韓輸出 『武器』は承知、堀田ハガネ」「迫撃砲、マレーシアへも」といったスクープを立て続けに放った。

 日本では、武器取引に関する調査報道はそれほど多くない。一種のタブーになっているのではないかと思わせるほどだ。そんな中、一連の「武器輸出」報道は、調査報道の歴史に燦然と輝いている。

「武器輸出」に関する読売新聞の調査報道。スクープを連発した

 

■参考URL
単行本『武器輸出』(読売新聞大阪社会部)
角川新書『武器輸出と日本企業』(望月衣塑子著)

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本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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