熱い心で走り続けた伝説の調査報道ジャーナリスト「バーグマン物語」

  1. オリジナル記事

◆森の中に住むバーグマンを訪ね、語らった

 バーグマンは現在76歳となり、カリフォリニア北部の森の中で一軒家に住んでいる。ヤギなどの動物を飼い、一見、悠々自適の老後に映るがそうではない。今も全米各地の調査報道ジャーナリストたちから助言を求められたり、情報提供を受けたりと日々忙しい。回顧録の執筆にも熱が入っている。

 大矢さんはそのバーグマンを訪ね、膝を突き合わせ、テレビ界に入る前の時代を出発点として彼の人生を丹念に聞き取った。連載では「ウォーターゲート事件」や「ペンタゴン・ペーパーズ報道」といった、調査報道の黎明期を背景にしながら、バーグマンの取材を振り返っていく。

 そして、テレビにとって(もちろん新聞も)スポンサーという存在が時に、いかにして巨大な報道の障壁になるのか、社内の壁を越えることがいかに難しいことか、読者は思い知らされる。連載後半にはギリシャの哲学者プラトンが著した「洞窟の比喩」の話も出てくる。その結末と報道の行く末を重ね合わせたとき、読者は戦慄を覚えるだろう。

 しかし、同時に多くの読者は、バーグマンのジャーナリストとしての生き方に感銘を受けるはずだ。何よりも彼は熱い。熱い上に冷静で、どこか困難を楽しんでいるようにも見える。テレビ局を去った後は、カリフォリニア大学バークレー校でジャーナリズムを教え、多くの後進を育成した。大矢さんも同校で学んだ1人だ。

◆取材する全ての人々へのラブレター

 「バーグマン物語 伝説の調査報道ジャーナリストの真実」を書いた大矢さんは、記事の公開後、「この連載は取材現場で行き詰まったり、悩みながら走っていたりする、すべての記者へのラブレターのつもりで書きました」と筆者(高田)に語った。沖縄のテレビ局に勤めていた時代の彼女自身がまさに日々、迷いと煩悶の中にいて、何をどう伝えるべきかを考え続けていたからだという。職場にはひと時代前の古臭い慣習もあり、理不尽と思えるやりとりもたくさんあったという。

 それでも、大矢さんはジャーナリストの仕事そのものを捨て去ろうと思ったことは一度もなかったという。どんな形であっても、「取材」から離れるつもりはない。

 それはなぜ?

 その答えも含めて、全ての取材者、ニュースに関心を持つ多くの人々を揺さぶる“熱き心”がこの連載には詰まっている。

■参考URL
「バーグマン物語 伝説の調査報道ジャーナリストの真実」(スローニュース)
映画「インサイダー」
大矢英代さん(フロントラインプレスHP)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

【主...
 
 
   
 

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