鹿沼市職員はなぜ殺されたのか? 「政官業+暴」の闇に肉薄した下野新聞の連載「断たれた正義」

  1. 調査報道アーカイブズ

◆「困難に立ち向かい、書き続ける勇気」こそ

 「断たれた正義」があぶり出したものは、何だったか。三浦記者は「事件の本質」として、次のように記している。

 行政を対象とした暴力による前例のない殺人事件であること、不当要求を受けていた職員が孤立無援になってしまうという行政組織の問題点、さらには、背景にある政界、官界、業界、暴力団など闇の勢力、「政官業+暴」の癒着の構図。それらを徹底して追及する。(中略)

 困難に立ち向かい、取材し続ける勇気、書き続ける勇気。それが試されたのが今回の事件だったと思います。連載に対しては読者の反応が非常に大きく、かつてない数の投書やファクス、メールが寄せられました。地元紙には地域の暗部をえぐるような報道をしてほしい。読者はそれを求めているのだということを、あらためて思い知らされると同時に、地域ジャーナリズムは何のためにあるか、どうあるべきかをもう一度見つめ直すきっかけになりました。

 一連の報道は2004年、早稲田大学ジャーナリズム大賞の準大賞に選ばれた。それを記念する2005年5月の講義で、三浦記者は早稲田大学の学生に「負のリレーは断たれたのか。鹿沼市役所は事件後、変わったのか」と質問され、こう答えている。

 結論から言いますと、変わっていないと思います。非常に残念なことなのですが。確かにこのような事件はもう起きないかもしれません。でも、それに通底しているもの、事なかれ主義や政争を繰り返す体質が完全に変わったとは言えないと思います。

 誤解を恐れずに言えば、下野新聞の調査報道で明らかにされた「政官業+暴」の構図は、どの自治体にも大なり小なり存在するのだと思う。おそらく、現在も、である。では、地域で生きる地方メディアは、そうした問題を取材し続ける勇気を持ち、書き続ける勇気を持つことができるのかどうか。下野新聞が発した問いは、今もすべてのメディアに向けられている。

下野新聞の連載をまとめた書籍「狙われた自治体」

 

■参考URL
単行本『狙われた自治体 ごみ行政の闇に消えた命』(下野新聞「鹿沼事件」取材班)
「ジャーナリストによる行政対象暴力の実態報告〜遺族の悲憤、繰り返すな」鹿沼市職員殺害事件 三浦一久記者の報告(全国暴力追放運動推進センターのHP)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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