首相経験者がずらり 国税庁に不当介入した議員の実名/『徴税権力』が示す政治と国税の関係

  1. 調査報道アーカイブズ

◆小泉氏の介入を記事にできなかった訳

 ただ、朝日新聞時代の落合氏は小泉元首相の事案を記事にしていない。なぜだったのか。その理由を落合氏は同書の巻末で明かしている。評論家・立花隆氏との対談「解説にかえて」の中でのことだ。

立花 小泉さんの税務調査に圧力なんて、朝日新聞が書けば当然、一面トップでしょう。
落合  もちろんそうです。他にも、この本で紹介したことはリアルタイムで記事にしていれば一面トップになるネタが一杯あります。しかし、新聞で書くのは大変なんです(略)……ニュースソースを守るという制約の他に、新聞社の情けない内部事情もあります。
立花 日本の新聞は権力をチェックするというより、権力にすり寄って情報を得るという手法に慣れすぎていて、いざという時に何も書けない。
落合 朝日社内でも警察や検察、国税など権力機関の腐敗を追及する記事はまったく歓迎されません。こうしたスクープは社内で面倒を引き起こす雰囲気でしたし、評価は必ずしも高くならないのです。(1994年には渡辺代議士らによる不当介入を朝日新聞でキャンペーン報道できたが)私が出稿プランを出した段階では編集局幹部はいい顔をしませんでした。「国税や大蔵を怒らせないか? 大丈夫か?」の連発です。その昔、「大蔵省にカラ出張の疑い」という記事を出す時も、「大蔵の反応はどうだ」と編集幹部は心配顔でした。相手が警察や検察になるともっと露骨です。(中略)編集局幹部からストップがかかったことがありました。

 国税庁はあくまでも徴税機関であり、「世直し機関ではない」と落合氏は言っている。当然、権力機関の一部であり、権力内部の力関係によって、右にも左にも動く。また国税庁は報道機関に対する税務調査の際、飲食の領収書などを徹底的に調査し、報道機関側の情報源を探ることもあるとも言われてきた。マスコミとのそんな攻防も『徴税権力』には描かれている。

 この強大な権力とどう向き合えばいいのか。落合氏は新聞記者時代、「●●億円追徴」「脱税で●●を刑事告発へ」といった、国税庁側を正義と位置づけるかのような記事を書かなかったという。では、いまの国税担当記者らは、国税の何をどう報じようとしているのか。落合氏は、その問いも投げかけている。

■参考URL
文庫『徴税権力 国税庁の研究』(落合博実著)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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