一個人が在日米軍の実相に迫る 米国の情報公開法を駆使した執念の4年間

  1. 調査報道アーカイブズ

◆米国の情報公開法を武器に在日米軍の全容を調べる

 1937年生まれの梅林氏は、東京大学数物系大学院で磁性物理学を専攻した工学博士だ。米国での研究生活や日本の民間企業勤務などを歴て、1980年からフリーで活動を始めた。その後は国際的なネットワーク「太平洋軍備撤廃運動」の立ち上げに関わるなど、国内外で平和運動に携わり、NPO法人「ピースデポ」の代表も務めた。そうした中で、理念的なものだけではなく、事実を事実として正確に把握し、それを広く社会で共有することの重要性を再認識したのだという。FOIAを駆使した活動はその大きな柱であり、『情報公開法がとらえた在日米軍』は4年間に及ぶ執念の記録だ。

 一連の仕事の白眉は、岩国や三沢(青森県)、厚木(神奈川県)、佐世保(長崎県)といった全国の主要な米軍基地について、部隊編成や施設の状況などを総ざらい的に示したことだろう。1990年代初めの調査であり、現在は大きく姿を変えているはずだが、開示請求で得た正確な情報の集積は迫力がある。こうした仕事の数々は、報道機関などによる重厚な調査報道と何ら遜色はない。

日米合同訓練(米第5空軍・横田基地のHPから)

 

 梅林氏は書いている。電子メールも普及していない時代の、米当局とのやりとりだ。

 情報公開法は、米連邦政府機関が行政過程でたくわえている情報を、市民に開放する制度を定めたものである。この制度に基づいてペンタゴン組織に情報公開を請求すると、軍機関は「請求者は、請求文書を特定するのに必要な詳しさをもって請求内容を指定しなければならない」という運用規則にしがたって回答してくる。その回答は、時には感動を誘うような親切さでもって、時には取りつくシマもない冷淡さでもって、私のもとに届いた。

 しかし、どのような内容であれ、その一つ一つの回答が、私にとっては、その次のステップを踏み出す重要な手がかりになった。回数を重ねるごとに、私の手紙は的確で、効率的なものになった。

◆「軍事機密」を神格化していないか?

 米国の情報公開法は1966年に制定され、「米政府と政府の情報は人民のものだ」という基本的立場を明確にした。情報は人民のものだから、政府が非公開にする場合は政府がその理由を明確に説明する義務を負っている。「知る権利」という用語では実感できない確固たる姿勢がうかがえる。梅林氏もそれを前提にこう記している。

 (在日米軍の実態が明らかにされないことに対し)「軍事機密があるのでやむを得ない」と考える市民が多い。確かにその通りである。世界的に軍事機密が肥大化して民主主義をおびやかしている。核心に触れる情報についての軍事機密の壁は極めて厚い。しかし、多くの市民が軍事情報を必要以上に神格化して、何もかもを「軍事機密」と考えてしまう落とし穴にはまり込んでいないだろうか。その結果、私たちの税金がどのように戦争に使われているかをもっと知る必要があるにもかかわらず、多くの市民は「軍事機密」の神話の前に、努力をあきらめてしまってはいないだろうか。

 この文章の「市民」を「報道機関」「新聞・テレビ」「記者」「ジャーナリスト」などに置き換えれば、これは梅林氏から取材者への叱咤激励とも読み取れる。

米軍のオスプレイ(米空軍横田基地のHPから)

 

■参考URL
単行本『情報公開法でとらえた在日米軍』(梅林宏道著)
単行本『情報公開法でとらえた沖縄の米軍』(梅林宏道著)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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